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寄生虫が自己免疫疾患の発症を抑える仕組みを、1型糖尿病モデルで明らかに-理研ほか

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2020年04月24日 PM12:30

寄生虫は宿主の免疫機能をどのようにして抑えているのか?

(理研)は4月22日、自己免疫疾患の1型糖尿病(Type 1 diabetes;T1D)発症の抑制に関わるCD8陽性制御性T細胞()の誘導メカニズムを発見したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの下川周子客員研究員(国立感染症研究所寄生動物部主任研究官、群馬大学大学院医学系研究科生体防御学協力研究員)と大野博司チームリーダー、国立感染症研究所寄生動物部の久枝一部長らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

近年、衛生環境の改善によって、寄生虫病や結核などの感染症は減少したが、アレルギーや自己免疫疾患などの現代病は増加の一途をたどっている。特に、薬剤の普及により寄生虫の感染者数が劇的に減少した地域では、自己免疫疾患の患者数が増加していることが疫学的に証明されている。このように、現代病が増加したのは、感染症が減少したためではないかという考えを「」という。

寄生虫に感染すると、宿主(ヒト、マウスなど)は免疫機能を発達させ、寄生虫を体外へ排出しようとする。これに対して、寄生虫は宿主の免疫機能を低下させるシステムを持つため、宿主の攻撃を回避できると考えられている。したがって、寄生虫感染症の予防・治療にはそのシステムの解明が重要であり、寄生虫が誘導する(免疫抑制性の)細胞の種類や分泌する物質を同定する研究が世界中で盛んに行われている。そこで研究グループは、自己免疫疾患の中でも、近年特に発症者が増加しているT1Dをターゲットとし、寄生虫の一種である腸管寄生線虫の感染がT1Dに与える影響を調べた。

腸管寄生線虫感染<トレハロース分泌<増殖した腸内細菌がCD8Treg誘導<自己免疫抑制

ストレプトゾトシン(STZ)は膵臓のβ細胞を特異的に破壊するため、マウスに投与するとインスリンが産生されなくなり、その結果、高血糖が引き起こされる。研究グループは、STZを低濃度で繰り返し投与することでT1Dのマウスモデルを作製。このモデルを使って実験を行った。すると、あらかじめ腸管寄生線虫であるHeligmosomoides polygyrus (H. polygyrus)をマウスに感染させた場合、T1Dを誘導しても血糖値の上昇が抑えられ、β細胞の破壊も見られなかった。つまり、H. polygyrusはT1Dの発症を抑制することがわかった。

H. polygyrusがT1Dの発症を抑制するメカニズムを調べるために、研究グループは、H. polygyrusが感染した際の免疫応答を解析。これまでH. polygyrusの感染において、さまざまな免疫抑制性の細胞が誘導されることが報告されていたが、その中でCD8陽性制御性T細胞(CD8Treg)に着目した。解析の結果、マウスにH. polygyrusが感染するとCD8Tregが増加し、感染マウスからその細胞を除去するとT1Dを発症。また逆に、非感染マウスにCD8Tregを移入することで、T1Dの発症が抑制された。これらの結果から、H. polygyrusによるT1D発症の抑制にはCD8Tregが重要であることが明らかになった。

次に、H. polygyrusがどのようにCD8Tregを誘導するのかを調べた。H. polygyrusは、主に小腸上部(十二指腸)に寄生する寄生虫なので、H. polygyrus感染マウスの小腸内容物に存在する代謝産物を、ガスクロマトグラフ質量分析計で解析。すると、感染マウスでは腸管内で糖のトレハロースが増加しており、そのトレハロースはH. polygyrus自身が分泌していることがわかった。

トレハロースは腸内細菌の餌になることから、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢の変化を解析したところ、H. polygyrusが感染することで、Ruminococcus属の細菌が増加していると判明。その中でも特にトレハロースを投与したマウスで増加したRuminococcus gnavus(R. gnavus)を野生型マウスに経口投与すると、CD8Tregが誘導され、さらにSTZを投与することでT1Dの発症を誘導しても血糖値の上昇が抑えられた。この結果から、H. polygyrusによるT1Dの発症抑制に関わるCD8Tregは、寄生虫が分泌するトレハロースで増殖したR. gnavusによって誘導される可能性が示された。

1型糖尿病患者は血中CD8Tregが減少、誘導する腸内細菌も少ない

さらに、実際にT1Dの患者では血液中のCD8Tregが減少しているとともに、CD8Tregを誘導するRuminococcus属の腸内細菌が少ないことも明らかとなった。

CD8Tregはこれまでに、多発性硬化症や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患に効果があることが動物モデルで示されているが、その誘導メカニズムは不明だった。今回の研究で、CD8Tregの誘導には、寄生虫が分泌するトレハロースとそれによって増殖した腸内細菌が必要であることが明らかになった。

T1Dには膵移植や膵島移植といった治療も選択肢の一つとして考えられるが、ドナー不足などの問題から現実的ではなく、現時点では一生涯にわたるインスリンの注射による投与という、生活の質(QOL)に対する悪影響が極めて大きい治療法しかない。研究グループは、「今後、このCD8Tregの誘導メカニズムや膵臓での抑制メカニズムが明らかになることで、T1Dの新たな予防・治療法の開発へつながると期待できる」と、述べている。

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