医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ステロイド副作用の小児骨粗しょう症予防に「シグレック15療法」が有効-北大ほか

ステロイド副作用の小児骨粗しょう症予防に「シグレック15療法」が有効-北大ほか

読了時間:約 2分49秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年04月23日 PM12:30

小児が安全に使える、ステロイドと併用可能な骨粗しょう症治療薬はまだない

北海道大学は4月22日、シグレック15抗体が、小児ステロイド性骨粗しょう症に対して、有効かつ安全な治療法となり得ることを世界で初めて証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の髙畑雅彦准教授、同大学院歯学研究院の網塚憲生教授らの研究グループが、第一三共株式会社と共同で行ったもの。研究成果は「BONE」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

骨粗しょう症は高齢者に多い病気だが、小児でも骨系統疾患(生まれつきの骨の病気)やネフローゼ症候群、小児がんなどの疾病やその治療に用いられる薬剤によって骨粗しょう症を発症することがある。最も頻度が高いのはステロイド薬による骨粗しょう症で、長期的に使用した場合やパルス療法を行なった場合は、脆弱性骨折を起こすこともまれではない。成人では、ステロイドを投与する場合、予防的に骨粗しょう症治療薬を併用投与することが推奨されている。しかし小児では、既存の骨粗しょう症治療薬の安全性が確立されておらず、ステロイドと併用できる骨粗しょう症治療薬がない。そのため、小児にも安全に使用できる新しいステロイド性骨粗しょう症治療薬の開発が必要とされている。

骨粗しょう症の治療には破骨細胞の分化や働きを抑える骨吸収抑制薬が主に用いられるが、この薬剤を成長期の小児に使用した場合、骨の成長を妨げる可能性がある。これは、成人の骨が形を変えないままリモデリング(新陳代謝)で維持されるのに対し、成長期の骨はリモデリングに加えて、成長に伴う形態変化(モデリング)が必要なためだ。破骨細胞はこのモデリングにおいても重要な役割を担っている。実際に、遺伝的に破骨細胞ができない/機能しないマウスでは長幹骨に成長障害がみられ、こびと症を呈する。

シグレック15抗体と既存骨粗しょう症薬、予防効果と骨成長への影響をラットで比較

は主に破骨細胞の細胞膜に発現するシアル酸受容体ファミリータンパク質のひとつで、破骨細胞の最終分化を制御するI型膜タンパク質。シグレック15遺伝子を欠損するマウスは破骨細胞分化不全による大理石病様表現型を示すものの、成長障害はきたさない。これは成長帯付近にシグレック15の代償経路が存在するためだ。つまり、抗シグレック15分子標的療法は、骨の成長に悪影響を与えずに骨量を増加させる理想的な小児骨粗しょう症治療法といえる。そこで今回、研究グループは、成長期の小児ステロイド性骨粗しょう症に対するシグレック15 抗体と代表的な既存骨粗しょう症治療薬であるアレンドロネートの予防的治療効果と骨成長への影響を、ラットを用いて検討した。

まず、6週齢の成長期雌ラット背部にステロイド()が徐々に溶け出すペレットを埋め込み、ステロイド性骨粗しょう症モデルを作成。このラットに、シグレック15 抗体、アレンドロネート、溶媒のみ(コントロール)をステロイド投与と同時期に6週間投与し、骨成長への影響と骨量・骨強度増加効果を⽐較検証した。骨成長への影響は、経時的な体長、大腿骨長の計測と成長帯の組織学的観察で評価した。骨量・骨強度増加効果は、X線マイクロCTを用いた骨量・骨微細構造解析、⼆重エネルギーX線吸収測定法による骨密度測定、⼒学強度測定、および組織学的観察で評価した。

抗シグレック15療法は骨成長を妨げず、骨量と骨強度を増加

ステロイドを投与したラットは、健常ラットと⽐較して大腿骨の骨量と骨強度が低下するとともに体長及び大腿骨長の成長が鈍化した。ステロイドに加え溶媒のみを投与したラットと⽐較して、シグレック15抗体を投与したラットでは体長や大腿骨長に変化はなかったが、大腿骨の骨量、骨密度と骨強度が有意に改善した。アレンドロネートを投与したラットでは、骨量や骨密度が有意に改善したが、骨の形態異常や骨成長帯に異常が生じた。シグレック15抗体はアレンドロネートと⽐較して骨量増加効果や骨強度改善効果が優れていたが、これはアレンドロネート投与により骨形成がさらに低下したのに対し、シグレック15抗体投与では低下しないためと考えられた。つまり、骨成長に対する安全性だけでなく、骨粗しょう症治療効果においてもシグレック15抗体は既存の骨吸収抑制剤よりも優れる可能性が示された。

研究グループは、「抗シグレック15療法は、小児ステロイド性骨粗しょう症に対して有効かつ安全に使用できる可能性が示された。小児がんや自己免疫疾患、ネフローゼ症候群などの病気に苦しむ子どもにステロイドを使う際の有効な予防法になると期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大