抗HIV治療薬のネルフィナビル、白血球減少症等に用いられるセファランチン
東京理科大学は4月22日、国立感染症研究所で開発されたウイルス培養技術を利用して、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を培養細胞から効果的に排除できる薬剤を見出したと発表した。この研究は、同大大学院理工学研究科応用生物科学専攻の渡士幸一客員教授(国立感染症研究所ウイルス第二部主任研究官)、大橋啓史ポストドクトラル研究員(国立感染症研究所ウイルス第二部協力研究員)ら、国立感染症研究所ウイルス第三部、同第一部、同感染病理部、同エイズ研究センター、東京理科大学薬学部生命創薬科学科、九州大学、産業技術総合研究所、筑波大学、長浜バイオ大学、奈良先端科学技術大学院大学、米インディアナ大学、国立国際医療研究センター、北海道大学、東京大学、英オックスフォード大学等の研究グループによるもの。研究成果は、「BioRxiv」(審査前)に掲載されている。
画像はリリースより
研究グループは、国立感染症研究所で分離された新型コロナウイルスと、これを実験室で感染増殖できる培養系技術を利用し、すでに何らかの疾患に対して臨床で使用認可されている約300の承認薬のウイルス増殖への効果を検証した。そのうち5剤が、ウイルス増殖による細胞傷害を抑えることを見出し、この中から特に「ネルフィナビル」と「セファランチン」に着目した。
ネルフィナビルは抗HIV治療薬、セファランチンは白血球減少症や脱毛症、マムシ咬傷にもともと使用される薬剤である。これらはそれぞれ感染細胞から放出されるウイルスRNAを1日で最大0.01%以下にまで強く減少させ、現在治療薬候補となっている「ロピナビル」や「クロロキン」「ファビピラビル」よりも強い活性を持っている。セファランチンはツツラフジ科植物であるタマザキ(玉咲)ツツラフジ(Stephania cephalantha Hayata)やコウトウツズラフジ(Stephania sasakii Hayata)、ハスノハカズラ(Stephania japonica)などの根に含有されているアルカロイド。1934年に、日本の薬学者である近藤平三郎によって抽出、単離されたものである。
併用によって、細胞への侵入と複製を二重に阻害する可能性
今回の研究で、ネルフィナビルとセファランチンの併用により、1日で感染細胞からのウイルスを検出限界以下に排除できることが確認された。作用機序としては、薬剤ドッキングシミュレーションによって、ネルフィナビルは新型コロナウイルス複製に必須のメインプロテアーゼに、セファランチンはウイルスと細胞の吸着に必要なウイルススパイクタンパク質にそれぞれ結合する可能性が示された。
さらに、実際に臨床で使用する投与量でどの程度ウイルス排除に有効かを数理解析で予測。その結果、今回の解析では、ネルフィナビル(経口投与)単独治療で累積ウイルス量が約9%に減少し、ウイルス排除までの期間が約4日短縮された。ネルフィナビル(経口投与)とセファランチン(点滴投与)の併用治療ではさらに効果が増強し、累積ウイルス量が約7%に、ウイルス排除までの短縮期間が約5.5日となった。
「今回の結果は、ウイルス感染実験、インシリコ解析、数理解析などさまざまな技術を用いることにより、COVID-19に対する新たな治療法を提案し、ウイルスの新規伝播の抑え込みに有用な知見を提供するものだ」と研究グループは述べている。
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