ヒトなどの高等な動物の大脳に存在する「脳回」、マウスでは研究が困難
金沢大学は4月21日、従来は研究が困難だった「脳の進化の仕組み」を、独自の遺伝子操作技術を用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の河﨑洋志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国オンラインジャーナル「eLife」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトは、他の動物に比べて著しく脳が発達している。脳が発達したことにより、ヒトは特有の能力を獲得したと考えられている。脳の中でも、大脳は高次脳機能に関わる最も重要な場所であり、さまざまな脳神経疾患や精神疾患などとも関連することから特に注目されている。大脳の発達に大きく関わっているのが、今回の研究で対象としている大脳の表面に存在する「脳回」と呼ばれる隆起。ヒトなどの高等な動物の大脳の表面には多くの脳回があり、この脳回があることで、より多くの神経細胞を持つことが可能となり、脳の働きを発達させることができたと考えられている。しかし、研究で広く用いられるマウスの大脳には脳回がないことから、マウスを用いた脳回の研究は困難であり、脳回についての研究はほとんど進んでいなかった。
研究グループは、マウスよりもさらにヒトに近い発達した大脳を持つ動物の研究が重要であると考え、高等哺乳動物フェレットを用いた研究を推進してきた。しかし、フェレットを用いる研究技術が整っていなかったため、研究グループはフェレットの脳を遺伝子レベルから研究するための独自技術を世界に先駆けて開発してきた。さらに、この技術を用いて、病気モデルのフェレットの作製に成功するなどしてきた。
フェレットを用いて脳回形成の仕組みを解明
今回、研究グループは、フェレットを用いて、同研究室がこれまでに確立した独自技術により、大脳に脳回が形成されるために重要な遺伝子を発見し、この遺伝子が脳の進化の鍵となったことを明らかにした。まず、フェレットの大脳のソニックヘッジホッグを独自技術により増加させたところ、大脳の脳回が正常よりも多く形成されることが判明。一方、大脳のソニックヘッジホッグ経路を人為的に抑制したところ、脳回がうまく形成されずに小さくなった。これらの結果は、ソニックヘッジホッグ経路が脳回を形成するために重要であることを示唆している。
次に、脳回があるフェレットの大きな大脳と、脳回がないマウスの小さな大脳において、それぞれソニックヘッジホッグ経路を比較した結果、フェレットの大脳ではマウスの大脳よりも強くソニックヘッジホッグ経路が働いていることがわかった。この結果から、大脳の進化の過程で、ソニックヘッジホッグ経路が強く働くことが鍵となり、大脳のサイズが大きくなるとともに、脳回を持つことができるようになったと考えられる。
最後に、ソニックヘッジホッグ経路が働く仕組みを調べた結果、ソニックヘッジホッグ経路が神経細胞の数をコントロールしていることが判明。ソニックヘッジホッグ経路を増やすと大脳の神経細胞が増え、逆にソニックヘッジホッグ経路を抑制すると神経細胞も減った。このことから、ソニックヘッジホッグ経路は神経細胞の数を増やすことにより、脳回を形成すると考えられる。
今回、研究グループはフェレットに関する独自の研究技術を使って、大脳に見られる脳回が形成される仕組みおよび大脳の進化の鍵となる遺伝子を明らかにした。脳回に関する研究はこれまで限られており、この発見は世界に先駆けた研究成果だという。今後、これまでのマウスを使った研究では困難だったヒトに至る脳の進化の仕組みや、さまざまな脳神経疾患の原因解明に発展することが期待される、と研究グループは述べている。
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