理化学研究所と星薬科大学は、新型コロナウイルス蛋白質と治療薬候補化合物の分子間相互作用データを公開した。大阪大学蛋白質研究所の日本蛋白質構造データバンク(PDBj)では、131個の治療薬候補化合物とウイルス蛋白質の複合体に関する結晶構造が公開されているが、そのうち65個の相互作用データを解明した。治療薬候補化合物がどのようなメカニズムで標的蛋白質と結合するかを精密に評価したデータとなり、これらを公開することで創薬研究者が新型コロナウイルス治療薬やワクチンを設計する際に利用してもらいたい考え。
新型コロナウイルス治療薬の標的候補となるウイルス蛋白質には、ウイルス粒子を形成するスパイク蛋白質、ヌクレオカプシド蛋白質など約20種が知られており、PDBjでは9種の蛋白質について、治療薬候補化合物などとの複合体の結晶構造が131個登録されている。
ただ、治療薬開発を進めるに当たっては、結晶構造の解明だけではなく、治療薬候補化合物がウイルス蛋白質との相互作用で、どのような場合に強く結合するのかを精密に計算することが重要となっていた。
こうした中、理研生命機能化学研究センター制御分子設計研究チームの本間光貴チームリーダーと星薬科大学薬学部の福澤薫准教授らは、日本医療研究開発機構の支援を受け、共同研究を実施。新型コロナウイルス蛋白質と治療薬候補化合物の分子間相互作用を「フラグメント分子軌道法」(FMO法)で計算し、131個の結晶構造のうち65個に対して精密な相互作用エネルギー値を明らかにした。この研究成果は世界中の創薬研究者が自由に利用できる「FMOデータベース」に公開した。
研究グループは、治療薬が持つ構造上の特徴が新型コロナウイルス蛋白質とどう強く相互作用するかを明らかにしたことにより、コンピュータ上で化合物を探索するインシリコ創薬に応用につながるとしている。
今後、創薬研究者がより強く標的に結合する効果の高い治療薬を設計する際に参考となるデータとして役立てていきたい考えだ。