患者の脳活動を可視化して制御する新たな治療法「ニューロフィードバック」
広島大学は4月20日、抗うつ薬治療が無効だったうつ病患者を対象として、患者自身が左前頭葉の脳活動を制御するニューロフィードバックを用いて、うつ病症状が改善する結果を世界で初めて報告したと発表した。これは、同大脳・こころ・感性科学研究センター・山脇成人特任教授、高村真広特任助教の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」に掲載されている。
画像はリリースより
世界保健機関(WHO)の報告では、2030年にはうつ病が世界的に疾病負荷の第1位となることが予測されている。その一方で、薬物療法や精神療法を受ける3分の2の症例が完全に反応せず、治療に反応した2分の1しか寛解を維持しないなど、薬物治療の限界が報告されており、新たな治療法の開発が喫緊の課題だ。
患者の脳活動を可視化し、それを制御するニューロフィードバックは、うつ病の新たな治療法になる可能性があるとして、最近注目されている。ニューロフィードバックとは、機能的MRI(fMRI)などを用いて自分の脳活動を可視化し、リアルタイムでモニターしながら、その活動を訓練によって制御する方法だ。
研究グループは、これまでfMRIを用いたうつ病の脳機能解析研究から、左側の前頭葉の一部(背外側前頭前皮質)の機能低下と、この部位とシーソー関係にある頭頂葉の一部(楔前部)の機能亢進があることを発見し、うつ病の認知機能の低下や、反すう症状(くよくよと繰り返し考えること)に関連することを報告してきた。
今後は保険診療実現に向けて、症例数を増やしたランダム化比較試験により、治療効果を実証する予定
今回の研究では、薬物療法によって十分な回復がみられなかった難治性うつ病患者6人を対象に、左前頭葉の活動を高めるニューロフィードバック訓練の治療効果を検討した。fMRIを用いて患者の左前頭葉の脳活動を可視化し、その脳活動値を患者にリアルタイムで視覚的に提示。患者は過去の楽しい場面を思い出すなど自由な方法で、左前頭葉の活動を高める訓練を毎日15分程度5日間続け、訓練の前後でうつ病重症度と、反すう症状を測定した。その結果、訓練後に、うつ病の重症度と反すう症状は統計的に有意に減少しており、ニューロフィードバック訓練のうつ病治療効果を示唆する結果が得られた。
少数例のパイロット研究ではあるが、今回の研究成果により、左前頭葉の機能を高めるニューロフィードバック訓練が抗うつ作用を持つことが、世界で初めて明らかにされた。
研究グループは、「現在、本研究で示唆されたニューロフィードバックのうつ病治療効果を、症例数を増やしてより厳密なランダム化比較試験(RCT)による臨床研究を開始しており、保険診療で承認され広く臨床応用されることを目指している。本研究成果は、最先端脳科学の手法を用いて、社会課題であるうつ病の薬物治療以外の新たな治療法の道を切り開く革新的イノベーション技術として期待される」と、述べている。
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・広島大学 研究成果