⾎液と髄液中のサイトカインを計測し、両感染症の「免疫反応」を比較
新潟大学は4月17日、パレコウイルス-A3感染症とエンテロウイルス感染症の赤ちゃんの免疫反応を比較し、その違いを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科小児科学分野の羽深理恵大学院生と齋藤昭彦教授らのグループと、同研究科微生物感染症学分野(寺尾豊教授ら)、同研究科バイオインフォーマティクス分野(奥田修二郎准教授ら)との共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Infectious Diseases」に掲載されている。
画像はリリースより
生後4か⽉未満の乳児の感染症は、他の年齢の子どもと比べて重症化しやすく、⼊院が必要になることが多い。感染症は、⼤きく、「細菌によるもの」と「ウイルスによるもの」に分けられる。ワクチンが接種されることで、細菌の感染症は減っているが、ウイルスの感染症は、PCR法などの診断法が普及してきたことで、その重要性が増してきている。その中でも、パレコウイルス-A3とエンテロウイルスは、⾚ちゃんに敗⾎症や髄膜脳炎といった重い感染症を引き起こす代表的なウイルスだ。パレコウイルス-A3は、約20年前に⽇本で最初に発⾒された⽐較的新しいウイルスで、エンテロウイルスとともにピコルナウイルス科に属する。しかし、その病態については、未だ解明されていない。
赤ちゃんのパレコウイルス-A3感染症とエンテロウイルス感染症は、最初に⾼熱が出るが、その2つの感染症を見分けることは難しい。しかし、パレコウイルス-A3感染症は、より熱が⾼くなる、脈拍数が多い、手足が冷たくなる、集中治療室での治療が必要となることが多いなど、重い症状をきたす。また、発疹や⼿のひら、⾜の裏の⾚み、お腹が膨れるなどの特徴的な症状を認めることもある。⼀⽅で、脳を包む膜(髄膜)への感染症(髄膜炎)を合併することは、エンテロウイルス感染症に多いことが知られている。
今回研究グループは、パレコウイルス-A3とエンテロウイルスに感染した赤ちゃんの臨床症状の違いを、⾎液と髄液中のサイトカインを測ることで、免疫の反応の視点から⽐べ、パレコウイルス-A3感染症が、なぜ重い症状をきたすのかについて検討した。
パレコウイルス-A3は⾎液中のサイトカインが⾼く、エンテロウイルスでは髄液中のサイトカインが⾼い
研究では、⽣後4か⽉未満の⾚ちゃんで、1)パレコウイルス-A3に感染した⾚ちゃん16人、2)エンテロウイルスに感染した⾚ちゃん15人、3)熱が出て検査をしたが、どちらのウイルスの感染症でもなく、軽く済んだ⾚ちゃん8人について、⼊院時の⾎液と髄液中の22種類のサイトカインを測った。3つのグループで、どのサイトカインが⾼いか低いかを⽐較し、⾚ちゃんの症状や検査値との関係を調べた。
その結果、パレコウイルス-A3に感染した⾚ちゃんでは、他の⾚ちゃんと⽐べて、⾎液中のサイトカインが⾼く、逆にエンテロウイルスに感染した⾚ちゃんでは、髄液中のサイトカインが⾼いことがわかった。これは、パレコウイルス-A3感染症でより重い症状が多いことや、エンテロウイルス感染症で髄膜炎の頻度が⾼いことと関係していると考えられた。
また、パレコウイルス-A3に感染した⾚ちゃんでは、⾎液中のいくつかのサイトカイン(TNF-αとIL-1Rα)が、呼吸の回数と関係していた。さらに、エンテロウイルスに感染した⾚ちゃんでは、髄液中のいくつかのサイトカイン(IFN-α2やIL-6など)が、髄液の細胞の数と関係があることがわかった。パレコウイルス-A3とエンテロウイルスは、⾚ちゃんに重い感染症をきたす代表的なウイルスだが、宿主の免疫の反応は⾎液中と髄液中では異なり、それが、それぞれの感染症の症状や病態の違いに関わっていることが推察された。
COVID-19が⾚ちゃんで重症化するメカニズムの解明にも役立つ可能性
今回の研究成果により、⾚ちゃんにおいて、パレコウイルス-A3はエンテロウイルスとは異なる免疫反応を起こすことが明らかになった。今後は、実験室での研究を中⼼に、⾎液中や髄液中の炎症の精細なメカニズムを検討していくという。また、パレコウイルス-A3に感染した⾚ちゃんの中には、死亡したり、脳に感染が進んでけいれんが⽌まらなくなり、重い後遺症を残すような症例の報告もある。同大⼤学院医⻭学総合研究科⼩児科学分野では、この感染症について、2019年から全国の⼤学病院や⼦ども病院に声をかけて、全国で毎年どのくらいの患者が発⽣しているのかを調査している。
研究グループは。「今後は、そのような特に重い感染症の患者に対しても今回の研究を⾏い、その治療について検討していく予定だ。さらには、現在、世界で流⾏しているCOVID-19において、⾚ちゃんでなぜ重くなるのか、そのメカニズムの解明にも、今回の研究結果が役⽴つ可能性があり、研究を進めていきたいと考えている」と、述べている。
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・新潟大学 研究成果