定型的な狭心症状を欠くことが多く、診断の遅れが問題視されている「微小血管狭心症」
東北大学は4月16日、微小血管狭心症患者で指尖細動脈における血管拡張因子を介した内皮依存性拡張反応が著明に低下しており、末梢微小血管障害を起こしていることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓協会の学会誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
冠攣縮性狭心症と微小血管狭心症は、冠動脈の狭窄などの明らかな異常が観察されないにもかかわらず、心臓の筋肉に血液が足りなくなる結果、胸痛を生じる疾患だ。両疾患とも冠動脈の機能異常が原因とされ、冠攣縮性狭心症は心表面冠動脈の攣縮が、微小血管狭心症は冠微小血管における攣縮あるいは拡張障害の2つの機能異常が原因と考えられている。微小血管狭心症は、閉経前後の女性に多く、定型的な狭心症状を欠くことも多いことから、診断が遅れることが問題となっている。
さらに近年、微小血管狭心症患者は手足の先など末梢血管においても血管機能の異常が観察されることが報告されているが、その詳しい仕組みに関しては未だ十分には解明されていなかった。血管内皮細胞は、「内皮由来弛緩因子」と総称される血管を拡張させる物質を産生・放出し、血管の正常な機能の維持に重要な役割を果たしている。この内皮由来弛緩因子には主としてプロスタサイクリン、一酸化窒素(NO)、内皮由来過分極因子(EDHF)の3種類が存在していることが知られており、大動脈などの太い血管における弛緩反応は主にNOが、指先などの細い血管ではEDHFが重要な役割を果たしていることが知られている。しかし、両疾患における内皮由来弛緩因子の役割、特にEDHFの役割に関しては明らかにされていなかった。
内皮機能の著明な低下が、全身性の微小血管内皮機能障害を反映していることが判明
今回、研究グループは、冠攣縮性狭心症単独、微小血管狭心症単独、両疾患を合併した計3群の患者を対象に、前腕(肘から先の部分)の上腕動脈と指先の指尖細動脈を対象にNOとEDHFによる内皮依存性拡張反応を検討した。
狭心症を疑われて東北大学病院循環器内科で心臓カテーテル検査を施行した患者のうち、心表面冠動脈の攣縮を評価する検査および冠動脈の拡張能を評価する検査の両方を施行した43例を対象に、上腕動脈と指尖細動脈における内皮依存性拡張反応を同時に測定。さらに、内皮依存性拡張反応において、NOとEDHFによる反応を分けて評価するために、NOとEDHFの両方が働く条件、および、EDHFのみが働く条件で、内皮依存性の血管拡張剤であるブラジキニンによる血管拡張反応を検査した。
その結果、両者が働く条件では冠攣縮性狭心症と微小血管狭心症の2つを合併した患者において、それぞれ単独の患者に比べ、ブラジキニンで惹起される内皮依存性拡張反応が上腕動脈で顕著に減少していた。さらに、微小血管狭心症患者では、ブラジキニンに対する指尖細動脈の内皮依存性拡張反応はほぼ消失していた。一方、内皮非依存性の血管拡張薬(ニトロプルシド)に対する弛緩反応は3群間に差はなかった。つまり、抵抗血管における内皮機能(NOとEDHFによる内皮依存性拡張反応)は微小血管狭心症患者で著明に低下しており、全身性の微小血管内皮機能障害を反映していることが明確に示された。
今回の研究成果により、微小血管狭心症患者で、指尖細動脈における血管拡張因子を介した内皮依存性拡張反応が著明に低下しており、末梢微小血管障害を起こしていることが明らかになった。研究グループは、「本研究は、微小血管狭心症患者の末梢微小血管ではNOとEDHFを介した血管内皮機能が障害されていることを明らかにした世界で初めての重要な報告であり、微小血管狭心症患者の予後や新たな治療方法への応用などへとつながることが期待される」と、述べている。
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