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統合失調症患者と共同で、自身の主体性に関する簡易尺度ツールを開発-NCNP

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2020年04月14日 AM11:30

研究に取り入れるのが非常に難しい「当事者の視点」を、共同創造で解消できるのか

)は4月13日、統合失調症を持つ当事者(以下、当事者)と共同で、当事者が自分自身の大切にしている価値観に基づいた生活ができているかについて評価する主体性に関する尺度ツール(Subjective Personal Agency scale: )を開発したと発表した。これは、同センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部精神保健サービスの山口創生評価研究室長、塩澤拓亮研究員、松長麻美研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、欧州科学誌「Epidemiology and Psychiatric Sciences」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

国際的に精神障害当事者に対する地域ケアが発展する中で、支援のアウトカム(目標)にも変化があらわれている。具体的には、当事者の精神症状の悪化や再発、それに伴う再入院の防止だけでなく、当事者が地域の中で主体的に生活できているかという、主観的なアウトカムにも関心が向けられている。特に、過去30年間でエンパワメントやリカバリーといった当事者の主体性に類似する概念が国際的に関心を集める中で、当事者自身が評価する生活における主体性は重要なアウトカムになりつつある。

しかし、エンパワメントやリカバリーも含め、これまで開発された主体性や関連するアウトカムの尺度や評価ツールには、いくつかの課題がある。代表的なものとして、「関連する評価ツールや尺度の多くが欧米文化の中で作成されている」「必ずしも当事者の意見が反映されていない」「項目数が多いなどの理由で重い精神症状を持つ当事者にとって回答が難しい」などがあげられる。特に近年では、当事者と共同して臨床研究を進めること(:co-production)や、当事者や市民が研究に参加・参画すること(Patient and Public Involvement: PPI)が重要視されており、当事者の視点を研究にどのように取り入れるかについては国際的な議論となっている。

これらの背景から、研究グループは当事者と共同して、重い精神症状を持つ人も回答できる簡易な「生活における主体性(あるいは主体的な生活)」に関する尺度ツールを開発することを目的として研究を行った。

当事者参画研究の事例の1つとして、今後の研究への貢献に期待

研究は、2つのステージに分けて行った。第1ステージでは、地域精神保健福祉機構(COMHBO)の協力のもと、全国から当事者11人を募り、主体性に関するグループインタビューを実施した。その際、ファシリテーターも当事者が担った。インタビュー内容は、研究グループのメンバーが質的に分析。その後、インタビューに参加した11人の当事者に分析結果を確認してもらいつつ、回答のしやすさなどについて他の当事者の意見も参考にしながら、尺度ツールの原案を作成した。

第2ステージでは、全国18のassertive community treatment (ACT)チームにおける統合失調症の当事者195人から調査への参加協力を得て、尺度ツールの妥当性を検証した。因子分析により、最終的に5項目からなる主体性尺度ツールが提案された。また、この5項目の合計得点はエンパワメントの尺度との中程度の相関も確認された。これらの分析結果から、研究グループは、5項目の主体性に関する簡易尺度ツールを、「Five-item Subjective Personal Agency scale(SPA-5)」と名付けて、完成版とした。

主体性に関する簡易尺度(SPA-5)は簡便な尺度ツールとなっているので、研究と臨床の双方で利用可能だという。一方で、今回の研究は、重い症状を持つ人でも回答が可能であるという点に焦点を当てたため、ACTチームの統合失調症の当事者を対象としたが、今後はさまざまな背景をもつ当事者を対象に、尺度ツールの再検証をすることが課題だとしている。

今回の研究の特徴は、尺度開発の分析や成果物というより、むしろ、当事者と共同して尺度ツールを開発したという過程にある。臨床研究や地域実践に関する研究においては、今後、共同創造や当事者・市民参画の推進が国際的な潮流になっている。しかし、日本の精神科の研究における共同創造や当事者・市民参画はまだ開始されて間もない。今後、臨床研究の必須事項になっていくと思われる当事者参画研究の事例の1つとして、今後の研究への貢献が期待される。

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