早期小児う蝕で特徴的に検出されるスカルドビア菌
東北大学は4月10日、早期小児う蝕(Early Childhood Caries:ECC)患者から特徴的に検出されるスカルドビア菌のう蝕誘発機能、とくに糖代謝に関する生化学的機序について明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科口腔生化学分野の高橋信博教授、安彦友希助教および同研究科顎口腔矯正顎分野の亀田真衣歯科医師らと、米国フォーサイス研究所のAnne Tanner博士らとの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Frontiers in Microbiology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
スカルドビア菌は、ECCや青年期における白斑齲蝕病変から頻繁に検出されており、近年注目を集めている細菌だ。しかし、スカルドビア菌によるう蝕誘発機序は明らかにされていなかった。
スカルドビア菌は、食事の際に摂取した糖をエサにして酸を菌体外に排出。その酸によって口腔内のpHが低下し、歯が溶けること(脱灰)で、う蝕が生じる。通常は、酸性pHに傾いた環境を中性pHに戻す唾液の緩衝作用が働くが、糖の頻回摂取、口腔清掃状態の不良、唾液の分泌不足など、さまざまな原因で緩衝作用が追い付かない場合は、脱灰が進み、う蝕が進行する。
スカルドビア菌もストレプトコッカス・ミュータンス菌も糖から酸を産生し、歯の脱灰に十分なpH低下を引き起こすが、ミュータンス菌が主に乳酸を産生するのに対し、スカルドビア菌は主に酢酸を産生する。乳酸と酢酸はともに有機酸だが、pHの低い産生環境下では、酢酸の方が歯の内部に浸透しやすいことが報告されており、歯を脱灰し、う蝕の進行を早める可能性が高くなると考えられている。
高い耐酸性能を有し、酸性環境下での酸産生継続が可能
う蝕関連細菌は糖を取り込んで酸を産生するが、自身が産生した酸によって負のフィードバック的に酸産生が阻害されることが知られている。今回の研究では、ミュータンス菌は乳酸によって酸産生が阻害されるが、スカルドビア菌は酢酸、乳酸いずれの酸によっても阻害されないことが明らかになった。
すなわち、う蝕が誘発される酸性で乳酸が多い環境下において、ミュータンス菌は酸の産生を途中でやめるが、スカルドビア菌は酸を産生し続けることができ、歯の脱灰を誘発する能力が高いことがわかった。
特異的な糖代謝経路によりフッ化物の阻害効果を回避
また、う蝕予防方法のひとつに、フッ化物の利用がある。フッ化物の主な利点は、脱灰した歯の成分であるカルシウムやリンを効率的に歯に戻す再石灰化だが、同時に細菌の糖代謝に関わる代謝酵素の働きを阻害し、酸の排出を抑えるという働きもある。ストレプトコッカス・ミュータンス菌は、その糖代謝経路である解糖系の酵素がフッ化物により阻害され、酸産生が抑えられた。しかし、スカルドビア菌は同じ濃度のフッ化物では効果がなく、さらに高濃度のフッ化物を使用しても、酸産生を完全に抑えることができなかったという。
この原因を追究した結果、スカルドビア菌が持つ「ビフィドシャント」という酢酸産生に関与する特殊な糖代謝経路によって、フッ化物による代謝阻害を回避できることが明らかになった。
研究グループは、今回の研究成果より、今後、新たなう蝕関連細菌としてスカルドビア菌が注目されていくことが予測される、と述べている。
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