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NCCN指定の遺伝学的検査、日本人の大腸・乳・前立腺がんでも有用と判明-理研ほか

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2020年04月10日 AM11:45

病的バリアントは人種差があるが、NCCN指定の遺伝子は日本人集団にも重要?

(理研)は4月9日、日本人の大腸がん・乳がん・前立腺がん患者らの全ゲノムシークエンス解析を行い、各がんの遺伝学的検査に対する有効性を検証したと発表した。これは、理研生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの劉暁渓基礎科学特別研究員(研究当時)、桃沢幸秀チームリーダー、東京大学大学院新領域創成科学研究科の松田浩一教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「JCO Precision Oncology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

日本人の死因として最も多い「がん」の発症には、飲酒や肥満、身体活動度などの生活習慣要因だけではなく、両親から受け継がれる遺伝的要因も寄与する。個人間におけるゲノム配列の違いである「遺伝子バリアント」のうち、疾患の発症と大きく関わるものを「」という。病的バリアントが原因で発症するがん患者は、全体の5~10%を占めると考えられている。病的バリアントは、遺伝学的検査によって明らかにできる。例えば、BRCA1やBRCA2のような特定の遺伝子に病的バリアントを保有していると、乳がんや卵巣がんのリスクが高くなるが、PARP阻害剤などの薬が効果的であることが知られている。また、病的バリアントの有無は患者の近親者にとっても重要であり、遺伝学的検査を行うことで発症リスクを評価し、早期発見のための検診や健康管理を行うことができる。

しかし、病的バリアントが発見される遺伝子の傾向は人種間で異なり、世界最大規模である米国のNCCNガイドラインは主に欧米人のデータをもとに作成されているため、日本人にとってはどの程度有効か明確ではなかった。そこで、共同研究グループは、、乳がん、前立腺がんの早期発症患者を含む日本人集団を対象に、全ゲノムシーケンス解析を行い、NCCNガイドラインに指定されている遺伝子が日本人集団にも重要であるか評価を試みた。

NCCN指定の病的バリアント保有日本人患者の割合は、乳がん>大腸がん>

研究グループはまず、バイオバンク・ジャパンで収集された早期発症の大腸がん患者196人、乳がん患者237人、前立腺がん患者215人、対照群389人の合計1,037人のサンプルについて全ゲノムシーケンス解析を実施。次に、NCCNガイドラインに各疾患で遺伝学的検査の対象として指定されている遺伝子(大腸がん:12遺伝子、乳がん:11遺伝子、前立腺がん:9遺伝子で合計20遺伝子)について、病的バリアントを保有するかどうかを解析した。

その結果、1,037人中63人(5.9%)に各個人に1個ずつの病的バリアントを発見。そのうち、大部分の40個(63.5%)は1塩基バリアント、17個(27.0%)は挿入・欠失であり、残り6個(9.5%)は数千塩基以上のゲノム配列の欠失だった。また、これらの病的バリアントの3分の1にあたる21個は、国際的データベースであるClinVar、BRCAexchange、InSiGHTのどれにも含まれない、新しい病的バリアントだった。

さらに、各々のがんについて、どのような患者が病的バリアントを保有しているかを調べた。その結果、病的バリアント保有者の割合が最も高いのは乳がん14.8%(35人)、続いて大腸がん9.2%(18人)、前立腺がん3.7%(8人)の順であり、これらの割合は対照群0.5%(2人)に比べて有意に多いことがわかった。これにより、欧米人集団で行われた研究結果と類似していることが確認され、NCCNガイドラインで指定されたがんの遺伝子を解析することが、日本人集団にも有用性を持つことが示された。

前立腺がんはNCCN指定以外の遺伝学的検査の必要性も

研究グループは次に、病的バリアントが診断年齢やがん家族歴に関連するかを解析した。その結果、病的バリアント保有者/非保有者の平均診断年齢は、大腸がんでは33.9歳/39.3歳、乳がんでは33.7歳/35.6歳であり、大腸がん・乳がんの保有者は非保有者よりも早期に診断されていることが判明。また同様に、病的バリアント保有者/非保有者の同じがん家族歴を持つ割合は、大腸がんでは64.7%/23.3%、前立腺がんでは50.0%/13.0%であり、大腸がん・前立腺がんの保有者は非保有者よりも同じがん家族歴を持つ割合が高いことがわかった。また、前立腺がんの保有者/非保有者では、胃がん家族歴を持つ割合が50.0%/5.9%であり、前立腺がんの病的バリアント保有者は胃がん家族歴の割合が高いことがわかった。

さらに、各々のがんで病的バリアントが見られた遺伝子の特徴を解析。その結果、大腸がんでは、MSH2、MLH1、MSH6などのミスマッチ修復遺伝子に病的バリアントを保有する患者が11人(5.6%)、家族性腺腫性ポリポーシスの原因遺伝子であるAPCに病的バリアントを保有する患者が6人(3.1%)確認された。また、数千塩基以上のゲノム配列の欠失が6人(3.1%)で確認され、そのうち4個がMSH2、MLH1などのミスマッチ修復遺伝子上にあり、2個がAPC遺伝子上にありました。一方、乳がんでは、BRCA1またはBRCA2に病的バリアントを保有する患者が26人(11.0%)確認され、乳がん患者の病的バリアント保有者(35人)のうち74.4%を占めていた。前立腺がんでも、1個の病的バリアントを除く7個がBRCA1またはBRCA2で同定された。

最後に、NCCNガイドラインで指定された遺伝子以外にも、遺伝学的検査を行うべき遺伝子がないかを検証するために、がんの原因となる変異が報告されている遺伝子をまとめたCGCデータベースに登録されている遺伝子から合計98個の遺伝子(大腸がん:86遺伝子、乳がん:87遺伝子、前立腺がん:89遺伝子)を選択して解析。その結果、1,037人中42人(4.1%)に各個人1個ずつの病的バリアントが見つかった。そして病的バリアント保有者の割合は、乳がん4.3%(10人)、大腸がん4.1%(8人)、前立腺がん7.9%(17人)であり、そのうち前立腺がんについては対照群1.8%(7人)と比べて有意に多く検出された。また、前立腺がんの患者のうち、DNA修復に関連する遺伝子に病的バリアントを保有する患者は4.1%(9人)と多かった。これは、前立腺がんではNCCNガイドラインの指定遺伝子以外の遺伝子も検査する必要があることを示している。

今回の研究成果により、NCCNガイドラインで指定された遺伝子が日本人集団にも有用であることや、前立腺がんにおいて日本人の遺伝学的検査の対象として拡張すべき遺伝子の候補が示された。研究グループは、「他のがん種についても、同様に大規模に解析を行うことで、日本人に合った遺伝学的検査の確立が期待される」と、述べている。

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