腎臓構造へと導くNPとUBの相互作用は?
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は4月8日、ヒトiPS細胞から後腎ネフロン前駆細胞(NP)と尿管芽(UB)それぞれに分化する培養システムを構築することに成功し、培養皿上で糸球体、尿細管などのネフロンの特徴を持った組織と集合管を連結させたヒトの腎組織の作製や、生体内において移植した腎組織が血管とつながることを確認したと発表した。この研究は、同研究所の辻本啓大学院生(CiRA増殖分化機構研究部門)、笠原朋子元大学院生(元CiRA同部門)、末田伸一元大学院生(元CiRA同部門)、および長船健二教授(CiRA同部門)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Cell Reports」オンライン版で掲載されている。
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の治療法の開発に向け、これまで、iPS細胞から作製される腎前駆細胞を用いた再生医療の研究が盛んに行われてきた。近年、マウスのES細胞やヒトiPS細胞からNPまたはUBを作製した報告がされたが、同一の分化システムの中でヒトiPS細胞からNP、中腎ネフロン前駆細胞、UBを別個に作り分けた報告はなく、また、腎臓構造へと導くNPとUBの相互作用についても深く解明されていなかった。
そこで研究グループは、ヒトiPS細胞から複数の腎前駆細胞を別個に分化させる培養システムを構築することを試み、作製した腎前駆細胞を生体外で培養し、マウスに移植して調べた。
画像はリリースより
ヒトiPS細胞から腎臓の元になる複数種の中胚葉へ分化させる培養システムを構築
これまでの研究で、CDX1を発現する胚盤葉上層にある細胞が中胚葉の細胞を導くこと、また、CHIR99021、RA、BMP、FGFの4因子がCDX1の発現に重要だということもわかっていた。今回の研究ではまず、ヒトiPS細胞に上記の4因子を加えCDX1+細胞を誘導。次に、CDX1+細胞へステージごとにさらに別個の因子を加えていき、NP、中腎様ネフロン前駆細胞、側板中胚葉、沿軸中胚葉を作り分けることに成功した。
一方で、以前構築した培養システムで、ヒトiPS細胞からUBに分化させた。ヒトiPS細胞からCDX1+細胞を経由して誘導した場合、UBは全く分化誘導されず、UBを作製するには、ヒトiPS細胞からCDX1+細胞を経由せずに直接誘導させる必要があることが判明。このことは、UBが胚盤葉上層においてネフロン前駆細胞とは異なった部位の細胞から発生する可能性があることを示唆するという。
NPとUBを培養皿上で共培養させ、腎組織を作製
次に、培養皿上で腎組織を作るため、以前構築した培養システムを用いて、ヒトiPS細胞から作製したNPとUBを共培養させた。先行研究より、NPとUBは相互作用し、自己組織化することがわかっていたため、NPとUBの細胞をバラバラにした後に混ざり合うように培養させた。20日後、培養した組織にネフロンの部位や集合管を特定するマーカーの発現を調べた結果、糸球体、尿細管、集合管が存在していることを確認した。
マウス生体内に腎組織を移植し、血管と結びつくことを確認
続いて、作製したヒト腎組織をヒト細胞に対して拒絶反応を示しにくい免疫不全マウスの腎臓被膜下のスペースに移植し、マウスの血管との結びつきを調べた。移植後20日経過したマウスの血管に赤色蛍光色素を流し、腎臓を調べたところ、移植した腎組織へ血管が結びつく様子を確認。なお、腎組織は培養皿上のときと同様に糸球体、尿細管、集合管などを含んでいることが判明し、尿細管と集合管は連結していることも確認したという。
最後に、結びついた血管が実際に機能しているか調べるため、多光子励起顕微鏡を用いて、移植後10日経過した生きた状態のマウスの腎臓を観察。その結果、赤色蛍光色素で造影した血流が移植した腎組織に入り、糸球体を通っていることを動画で確認したとしている。
ヒトiPS細胞から血管や軟骨、そして腎臓の元になる複数種の中胚葉を作り分けた同研究の培養システム構築は、ヒト腎臓の発生生物学の新たな知見や腎臓疾患の仕組みの解明につながることが期待できるという。また、今回初めて、ヒトiPS細胞からネフロンと集合管が連結されたヒトの腎組織を作製することに成功し、さらに生体内で血管とつながることが確認された。作製した腎組織は小さく、構造も未熟なため、透析療法が必要になる患者の体内に移植して尿を作るなどの機能はない。しかし、異なる腎前駆細胞から形成されるため、これまで困難だった、糸球体と尿細管と集合管がつながったヒト腎組織をヒトiPS細胞から作製できたことは、腎臓再生の大きな一歩だという。研究グループは、今回の研究成果は腎臓の再生医療に必要となる細胞の供給法として期待できる、と述べている。
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・京都大学iPS細胞研究所 プレスリリース