医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 白血病に高頻度で認められる「コヒーシン遺伝子変異」による発症機序を解明-京大ほか

白血病に高頻度で認められる「コヒーシン遺伝子変異」による発症機序を解明-京大ほか

読了時間:約 3分6秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年04月09日 AM11:45

コヒーシンを含む複数遺伝子の変異による白血病発症機序は不明だった

京都大学は4月8日、コヒーシン遺伝子変異による白血病発症の機序を解明したと発表した。この研究は、同大医学研究科の小川誠司教授、越智陽太郎特定助教、マサチューセッツ工科大学の鈴木洋客員研究員、東京大学の白髭克彦教授、宮野悟教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Discovery」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

研究グループはこれまでの研究で、次世代シーケンサーによる大規模な遺伝子解析により、急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群の10~20%にコヒーシン遺伝子変異が認められることを報告している。このコヒーシンは、遺伝子のエピジェネティックな制御において中心的な役割を果たすことが近年次々と明らかになり、分子生物学の領域でも盛んに研究が行われるホットトピックの1つとなっている。しかし、コヒーシンに異常が生じたときに、なぜ白血病を発症するのかはわかっていなかった。また、コヒーシン遺伝子のうちの1つ、STAG2遺伝子が最もよく変異を起こすが、このSTAG2変異は高頻度に他の遺伝子変異と共存することもわかってきた。しかし、複数の遺伝子変異が発がんを誘導する機序も大部分が不明なままだ。

STAG2変異はRUNX1変異と高頻度に共存、両変異で骨髄異形成症候群を発症

今回研究グループは、まず遺伝子変異同士がどのような共存関係にあるかを明確にするため、3,047例の急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群の症例の大規模なゲノム解析を実施。その結果、一部の白血病において、エピジェネティックな制御に関わるとされるSTAG2、、SRSF2、ASXL1の4つの遺伝子変異がきわめて高頻度に共存し、さらに、これらの遺伝子変異が複数認められる場合には、著しく生存率が低く難治性であることがわかった。このことから、これらの遺伝子変異が、白血病の進展に協調的に作用する可能性が考えられた。

次に、これらの遺伝子変異を特徴とする白血病発症の分子機序を解明するため、まずStag2ノックアウトマウスを作製して解析。その結果、さまざまな血液細胞の機能の異常が認められたが、Stag2遺伝子単独の異常では白血病などのがんの発症には至らなかった。さらに、このマウスでは、造血幹細胞の機能に重要な転写因子Runx1の活性が上昇していることがわかった。ゲノム解析での知見であるSTAG2とRUNX1の協調関係が改めて予想される結果になったことから、この2つの遺伝子間の相互機能をさらに究明することとし、Stag2とRunx1の両遺伝子のノックアウトマウスを作製して解析。その結果、予想された通り、両遺伝子のノックアウトマウスは、単独の遺伝子ノックアウトマウスに比べ、一段と血液細胞の機能に異常を起こし、最終的に骨髄異形成症候群を発症した。

コヒーシン変異で染色体3次元構造変化、RUNX1変異で異常が加速し発がん

こうしたコヒーシンSTAG2とRUNX1の異常がどのように白血病を引き起こすかを解明するために、RNAシーケンス、ChIPシーケンス、ATACシーケンス、Hi-Cといった、次世代シーケンサーを用いた最新のエピジェネティック解析を統合的に実施。その結果、Stag2とRunx1両遺伝子のノックアウトマウスでは、非常に広範な遺伝子発現や転写因子の活性の異常が生じるほかに、染色体3次元構造において、エンハンサー・プロモーター間のループ形成が弱まっていることがわかった。そして、このループ形成の異常が、転写一時停止の程度の強い遺伝子の発現低下に帰結するという新規の法則性も明らかとなった。こうした遺伝子発現の異常は、コヒーシン変異のある白血病症例でも実際に認められ、さらにRUNX1、SRSF2、ASXL1などの遺伝子変異が加わることで、より顕著になることも確認された。このように、コヒーシン遺伝子に変異が生じると、染色体の3次元構造の変化などのエピジェネティックな異常が生じ、さらにRUNX1などの遺伝子変異が追加されることで一段と異常が蓄積し、白血病を発症するという一連の機序が解明された。

今回の研究成果により、白血病の10~20%と高頻度に認められるコヒーシン遺伝子変異の役割を詳細に解明し、染色体3次元構造の異常が白血病発症に重要であることが示唆された。さらに、こうした異常は、コヒーシンのみでなく、その他の特定の遺伝子変異が加わることで一段と悪化することもわかった。そのため、今後は遺伝子変異による染色体3次元構造の変化や、複数遺伝子変異による協調作用などを、より幅広く解析することが重要となっていくものと考えられる。また、今回の研究で新たにわかったコヒーシンの機能に関しては、分子生物学領域における基礎研究の進展にも重要な手がかりを与えるものと期待される。近年はエピジェネティックな異常を標的とした新規薬剤も多数登場している。研究グループは、今回の研究で解明された染色体3次元構造の異常などの一連の機序を手がかりとして、新しい治療・予防法を求めて研究を行っていくとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 網膜疾患のステロイド治療、投与時期により血管修復メカニズム損なう可能性-京大ほか
  • 食道症状への不安など心理的影響を調べる日本語版質問票を開発-大阪公立大ほか
  • 幼児の運動発達を可視化、新ツールSMC-Kidsを開発-名城大ほか
  • 電気けいれん療法後の扁桃体下位領域構造変化が、症状改善と関連の可能性-京大
  • パーキンソン病、足こぎ車いすの有用性を確認-畿央大