■院内取組みを地域に発信
八尾市立病院は、今月から院内フォーミュラリーの運用を開始した。プロトンポンプ阻害薬(PPI)の注射剤、抗インフルエンザウイルス薬の2領域でスタートし、原案が固まったPPI経口剤についても院内での合意形成を進める。今後も段階的に領域を拡充する計画で、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などの策定を視野に入れている。当初目標にしていた地域フォーミュラリーの策定にはまだ至っていないが、院内での取り組みを地域に発信しながら、実現の道筋を探りたい考えだ。
PPI注射剤の第1選択薬は後発品のオメプラゾール、第2選択薬はタケプロンの使用を推奨する。効果はほぼ同等と考えられるため、経済性を考慮して後発品を第1選択薬に設定した。医師が電子カルテで第2選択薬をオーダした時に、第1選択薬を知らせる注意喚起をポップアップで表示する。処方の強制力はなく、医師の裁量で第2選択薬をオーダすることはできる。
抗インフルエンザウイルス薬の第1選択薬は後発品のオセルタミビル、第2選択薬はイナビルとリレンザ(院外専用)とし、第3選択薬は特定患者限定でゾフルーザに設定した。PPI注射剤と同様に第2選択薬オーダ時に注意喚起を表示するが、強制力はない。各薬剤の費用対効果や薬剤耐性菌の出現状況等をもとに、同院の抗菌薬適正使用支援チームが昨年12月に策定した同薬推奨フローでオセルタミビルが第1選択薬に設定されたことも踏まえて、使用優先順位を決めた。
フォーミュラリーの意義や役割について同院総長の星田四朗氏は、「どの診療科の医師でも研修医であっても一定の標準的な治療を実践できるようにするのが病院の使命。医師には処方の裁量権があり、あくまでも標準的な治療の指針として示すもので、強制ではない」と語る。
策定のきっかけになったのは、八尾市が2018年度から取り組みを開始した大阪府の後発品安心使用促進事業のモデル事業だ。事業の一環として八尾市内の各病院で採用されている後発品をリスト化し公表した。さらに、昨年2月には医師会、歯科医師会、薬剤師会の代表者らからなる「八尾市医薬品適正使用に関する懇話会」を開催し、フォーミュラリーの推進に取り組む方針が固まった。
この方針を受けて八尾市立病院は、19年度から具体的な作業に着手。院内の全医師を対象に意識調査を実施した結果、約半数の医師から回答があり、約75%がフォーミュラリーの考え方に賛同した。医師が策定を望む領域は、[1]降圧薬[2]睡眠導入薬[3]消化性潰瘍薬[4]高脂血症薬――という順で多かった。医師の回答を踏まえ、まず他院での実績が豊富なPPIなどから策定を開始した。
院内フォーミュラリーの対象は、2剤以上採用のある同種同効薬で後発品の採用がある薬効群。策定手順について、薬剤部の小川充恵氏は「当院では薬剤部が原案を作成する。それをもとに各診療科部長のヒアリングを行って意見を反映し、最終的に薬事委員会の承認を得て策定となる」と説明する。
今後も段階的に対象領域を拡充する計画だ。既に原案を作成したPPI経口剤の院内合意に取り組むほか、策定の希望が多かった降圧薬の一種、ARB等を対象に少しずつ領域を増やす考え。睡眠導入薬も有力な候補になるという。
運用を開始した2領域については、導入後の使用量や薬剤費の変化などを評価する。数カ月ほど状況を追跡した上で、薬剤師が医師に推奨薬の使用を積極的に提案する必要があるかどうかなど、より良い運用方法を検討する。使用拡大に向けては「推奨薬を院内パスに組み込むことも次のステップとして考えられる」と事務局参事(薬剤師)の小枝伸行氏は語る。
今後、院内の取り組みを地域フォーミュラリーとしてどう発展させるかが大きな課題だ。星田氏は「医師の処方権を担保しながら、地域の中で標準治療薬を普及すべき。どう進めるべきなのか模索しているところだが、地域の医師が推奨薬を使いやすい環境を構築しなければ実現しない。環境づくりがまだ不足している」と話す。
院内フォーミュラリーの情報を地域に開示したり、市民や医療者に向けてその意義を発信しながら、関係者の理解を得たい考え。八尾市の三つの急性期病院での話し合いなども検討していく。