ハグによる影響を100組以上の親と赤ちゃんの心拍間隔変化から検討
東邦大学は4月6日、生後4か月以上の乳児は両親にハグされると、初対面の女性にハグされた時よりも心拍間隔の増加率が高くなり、副交感神経が活性化され、リラックスすることがわかったと発表した。これは同大医学部解剖学講座の吉田さちね助教と船戸弘正教授らの研究グループが、東京大学大学院、大阪大学大学院らと共同で行った研究によるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
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授乳や移動といった赤ちゃんの生存に直結する場面のほかに、親が赤ちゃんを腕の中に抱く時がある。その1つが「ぎゅっと抱きしめること」で、親が赤ちゃんに喜びや愛情を言葉ではなく、身体接触によって伝える行動として行われる。この行動は、英語ではHug(ハグ)と表現され、さまざまな文化圏の親子でよく見られる。しかし、ハグが赤ちゃんや親にどのような作用を及ぼすのかはほとんど研究されておらず、不明だった。そこで研究グループは、ハグの作用について、心拍変動に着目して検討することにした。
生後4か月以上の赤ちゃんは、「両親がハグした時」に心拍間隔の増加率が上昇
初めに、母親に乳児を「軽く縦抱きする」「かわいいと思ってぎゅっとハグする(以下、ハグする)」「そのまま走れるくらい強く抱きしめる(以下、強く抱きしめる)」と、接触圧の異なる3つの抱き方をそれぞれ20秒ずつ行ってもらった。すると、生後4か月未満の乳児では、「ハグする」と「強く抱きしめる」の時に、「軽く縦抱きする」よりも心拍間隔の増加率が低下。そこで、乳児の背中を支える母親の手の平に、柔らかい圧センサを着け、接触圧を計測しながら、乳児の心拍間隔を調べた。その結果、生後4か月未満の乳児は、接触圧が大きくなると、心拍間隔の増加率が下がる特性をもつことが明らかになった。
また、生後4か月以上の乳児で、ハグされる直前にベビーベッドにいる乳児の頭部の動きを計測。実際に母親がハグした時の心拍間隔の増加率について、頭部の動きが多いグループと動きが少ないグループで比較したところ、動きが少ない乳児では、多い乳児よりもハグされた時の心拍間隔の増加率が有意に上がることがわかった。父親によるハグでも同様の変化が確認された。一方、「軽く縦抱きする」と「強く抱きしめる」の時には、これらの違いは見られなかった。研究グループはさらに、両親ではなく、育児経験のある初対面の女性にハグされた時の乳児の変化を調べた。その結果、ハグ直前の頭部の動きが少ない乳児が初対面の女性にハグされると、心拍間隔の増加率は、両親にハグされている時よりも下がることがわかった。
今回の解析には、実験前や実験中に泣いている乳児は含まれていない。つまり、一見おとなしくハグされている乳児でも、誰にハグされているかによって、実は生理反応は大きく違っていることが示唆される。また、アンケート調査では、9割以上の父母が自分の子をハグすると「安心する」と答えている。実際、母親も父親も自分の子をハグすると、子の月齢とは関係なく、ハグする前と比べて心拍間隔の増加率が高まり、リラックスすることがわかった。こうした生理変化がハグによる安心感を生み出している可能性がある。「得られた基礎知見は、将来、乳児における感覚処理や認知の発達、そして親子関係の構築について理解を深めることに役立つと期待できる」と、研究グループは述べている。
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・東邦大学 プレスリリース