血液循環により静水圧刺激を受けると、血管内皮細胞はどのように反応するか
東京農工大学は4月6日、一時的な血圧の上昇が血管新生を促進することを発見し、その仕組みを解明したと発表した。これは、同大大学院工学研究院先端物理工学部門の吉野大輔准教授とシンガポール国立大学のLim Chwee Teck教授、東北大学の船本健一准教授、佐藤正明名誉教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
私たちの体に張り巡らされている血管には、さまざまな刺激に対応して、正常な状態を維持しようとする性質(恒常性)がある。この仕組みのひとつとして、血管の内側に単層で存在する血管内皮細胞は、血液の循環により生じる「流体せん断応力」「伸展張力」「静水圧」といった血行力学刺激を受け、自らの形態や機能を変化させることで、血管の恒常性を制御している。血行力学刺激のうち、流体せん断応力や、拍動による血管の拡張・収縮による伸展張力に対しては、血管内皮細胞の刺激感知・応答の機構や、これらの刺激に基づく血管の恒常性制御機構がこれまで明らかにされてきた。しかし、血圧に関係する静水圧刺激については、静水圧刺激の実態を含めて血管内皮細胞の感知・応答機構の大部分が明らかになっていない。
Ras-ERK経路の一過的な活性化により、管腔構造形成が促進される
研究グループは、静水圧刺激を加えた細胞の様子を高倍率かつ経時的に観察するため、「静水圧顕微鏡法」を新たに確立。運動時の血圧上昇に相当する50mmHgの静水圧刺激を3時間加えると、血管内皮細胞による管腔構造形成が促進されることを見つけた。また、この管腔構造形成の促進は、細胞増殖をコントロールすることで知られる細胞内のシグナル伝達経路(Ras-ERK経路)が静水圧刺激により一過的に活性化されることが原因であるとわかった。
また、このRas-ERK経路の一過的な活性化は、静水圧刺激による水透過チャネル(Aquaporin1)を介した細胞内外の水の移動を原因とする細胞膜の変形と、その細胞膜変形に伴う特定のGタンパク質共役受容体、Gタンパク質およびProtein Kinase C(PKC)の活性化によって誘導されることも判明した。これらのシグナル伝達経路は、静水圧刺激を細胞内の生化学シグナルに変換する過程であり、これまで未解明であった静水圧刺激に対する血管内皮細胞の感知・応答機構の一端を解明できたと考えられる。
今回報告した静水圧刺激による血管内皮細胞の管腔構造形成の促進は、運動時のように一時的な血圧上昇を想定した静水圧刺激によるもの。「今後、静水圧刺激の大きさや負荷時間による管腔構造形成促進のシグナル伝達経路の活性や機能の違いを詳細に明らかにすることで、静脈奇形などの血管新生の異常が重要な要因となる疾患に対する新たな治療法や運動効果を最大にする効率的なトレーニング方法の開発につながると期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京農工大学 プレスリリース