舌下免疫で割合が増加するCD206陽性マクロファージのはたらきは?
東京医科歯科大学は4月2日、舌下への抗原反復塗布により舌下粘膜に現れるCD206陽性マクロファージが、免疫寛容に関わることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科分子免疫学分野の永井重徳准教授およびヤン・ユエ大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Immunology」にオンライン掲載されている。
花粉症やダニアレルギーに対する治療(脱感作療法)として、原因となる花粉やダニエキス(アレルゲン)などを、舌下に長期に渡り投与する治療法(舌下免疫療法)が日本で行われているが、どのような免疫細胞が関わっているか、そのメカニズムは明らかになっていなかった。
抗原提示細胞である樹状細胞は、外来抗原を捕捉し自然免疫応答を起動させるとともに、その抗原情報をT細胞に伝えて獲得免疫応答を起動する免疫システムの司令塔の役割を果たしている。口腔粘膜は、皮膚と同じ重層扁平上皮からなり、免疫学的な観点からも皮膚に近いと考えられてきたが、実際には皮膚と口腔粘膜間の樹状細胞の分布や機能には大きな違いがある。研究グループはこれまでに、舌下粘膜へ抗原を反復塗布することによって、典型的な樹状細胞に代わり、形態がマクロファージに似たCD206陽性細胞の割合が増加することを見出し、CD206陽性細胞が舌下免疫療法における免疫寛容に関与することを明らかにした。しかし、このCD206陽性細胞の性状については、これまで明らかになっていなかった。マクロファージの分化・機能は、組織環境に大きく影響を受けることが知られており、炎症反応に関わる古典的なマクロファージ(M1型)だけでなく、免疫を抑制するマクロファージ(M2型)が誘導されることも近年明らかにされ、M2型マクロファージは免疫寛容に関与すると考えられている。
CD206陽性マクロファージは樹状細胞の能力を低下させてT細胞応答を抑制
今回、研究グループは、ハプテン抗原としてFITCを反復塗布した舌下粘膜から免疫細胞を分離して、CD206陽性細胞がどのような特徴を持つ細胞であるかを検討した。その結果、CD11b、CD11cおよびCD206分子の発現パターンから、CD206陽性細胞はCD11bを中程度発現するCD11c陰性細胞であり、単球マーカー分子Ly6Cの発現が低く、組織マクロファージマーカー分子F4/80、CD169およびTIM-4を発現していたことから、組織に定着するマクロファージと考えられた。また、抗原提示に必要なMHCクラスII分子や、T細胞活性化に必要な共刺激分子CD80、CD86の発現は低く、T細胞を活性化する能力は弱いと推察された。さらに、マイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析により、ホメオスタシス維持及び免疫抑制に関わる分子をコードする遺伝子群、さらにM2型マクロファージに特徴的なFizz1、Aldh1a1、Aldh1a2も強く発現していた。
研究グループは次に、生体内におけるCD206陽性マクロファージの役割を探るため、マウス舌下粘膜へFITCを反復塗布し、舌下粘膜にCD206陽性マクロファージの割合が多い状態を誘導してから、抗原を舌下投与して、所属リンパ節において抗原に対するT細胞応答を調べた。すると、FITC1回塗布群と比較してT細胞の増殖が抑えられ、炎症性サイトカイン IFN-γを産生するT細胞の割合が減少する一方、免疫抑制性T細胞の割合が増加したことから、CD206陽性マクロファージが、免疫寛容に関わることが示唆された。
この免疫抑制メカニズムの1つとして、CD206陽性マクロファージが樹状細胞を介して、間接的にT細胞応答を制御していることが推察された。そこで、CD206陽性マクロファージと樹状細胞を共培養したところ、CD206陽性細胞から産生される抗炎症性サイトカインIL-10によって、MHCクラスII陽性CD86高発現樹状細胞の割合、およびTh1応答に関わるサイトカインIL-12を産生する樹状細胞の割合が、CD206陽性マクロファージによって抑えられることが明らかになった。研究グループは、「この舌下粘膜CD206陽性マクロファージをターゲットとする新たな免疫制御法の開発につながることが期待される」と、述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース