血清を用いず頭蓋骨から間葉系幹細胞の樹立が可能になったことを踏まえて実施
広島大学は3月26日、脳梗塞に対する新しい治療法として、世界初となる自家頭蓋骨由来間葉系幹細胞を用いた再生医療の臨床研究を実施すると発表した。これは、同大大学院医系科学研究科脳神経外科学の栗栖 薫教授、生体環境適応科学の弓削 類教授らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
脳梗塞では、脳の血管が閉塞してから脳神経組織が障害されるまでの時間が非常に短く、超急性期に血栓を溶かす薬を投与したり、カテーテルの治療を行って血流を再灌流する治療も行われるが時間的な制約などがあり、それほど多くの患者に適応できるわけではない。
心臓の不整脈や動脈硬化からのアテローム血栓などが脳の比較的大きな血管を閉塞させると、脳が広い範囲で脳梗塞に至り、その後脳は浮腫を生じて正常部を圧迫し、場合によっては死に至ることもある。このような切迫した状況において、脳神経外科では、以前より頭蓋骨を広範囲に外し、硬膜を代用膜(骨膜や人工硬膜)で補填して開頭外減圧術(頭蓋内の圧を下げる手術)を行ってきた。しかし、このような中等症~重症の脳梗塞の患者では、手術により救命ができたとしても、広い範囲で障害を受けた脳神経組織を修復することはできなかった。
研究グループはこれまで、間葉系幹細胞を用いた神経再生治療に向けての研究を行ってきた。また、広島大学発のベンチャー企業である株式会社ツーセルおよび株式会社スペース・バイオ・ラボラトリーズと共同で研究を行い、血清を用いない方法で、頭蓋骨から間葉系幹細胞を樹立することが可能となった。これらの研究結果を踏まえて今回、同研究を実施する。
患者本人の頭蓋骨から間葉系幹細胞を樹立して静脈投与し、安全性と有効性を検証
今回の研究では、広島大学病院で発症急性期より治療を行っている初発の中大脳動脈還流域を含む一側大脳半球梗塞の患者が、一定の状態になった場合に開頭外減圧術を行う。
同再生医療臨床研究「開頭外減圧手術を必要とする中等症以上の脳梗塞患者に対する自家頭蓋骨由来間葉系幹細胞の静脈内投与試験」では、対象となる患者に開頭外減圧術を行った際に採取した本人の頭蓋骨片のうちの少量から、広島大学病院未来医療センター細胞療法室で、4~6週間かけて頭蓋骨由来間葉系幹細胞を培養する。
調製した細胞液を、脳梗塞発症後2~3か月をめどに、採取した患者本人の静脈内に点滴し、細胞投与後の安全性や神経機能評価項目を観察する。
同研究は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律および同法施行規則の定める「第2種再生医療等技術」に基づいて行われるもの。「本研究の結果をふまえ、重症神経疾患に対する細胞治療の臨床応用への展開を目指している」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・広島大学 研究成果