作用機序について十分な解析が行われていなかったPTH製剤「テリパラチド」
北海道大学は3月27日、骨粗しょう症治療薬「PTH製剤(テリパラチド)」による疼痛軽減作用の解明に成功したと発表した。これは、同大大学院歯学研究院の飯村忠浩教授らと旭化成ファーマ株式会社の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
骨粗しょう症では、背骨や手足の骨がわずかな力で骨折しやすくなり、日常生活動作(ADL)が低下する。加えて、80%以上の患者が背中や腰の痛みを抱えており、痛みによるADLの制限により、骨や筋肉がさらに弱くなる。これが悪循環となり、患者さんのQOL低下が深刻化する。
骨粗しょう症治療薬であるテリパラチドは、骨の形成を促し、骨の量や強さを増すことで骨粗しょう症による骨折を予防する。また、骨粗しょう症患者の背中や腰の痛みが、同剤による治療で改善したとの報告がある。しかし、その作用機序については十分な解析が行われていなかった。そこで研究グループは、閉経後骨粗しょう症モデル動物である卵巣摘除(OVX)ラットおよび培養神経細胞を用いて、痛覚過敏に対するテリパラチドの作用について詳細に検討した。
テリパラチドが神経系細胞にも直接作用し、疼痛軽減作用を発揮
まず、12週齢のメスのラットに、卵巣摘除(OVX)で閉経後骨粗しょう症の状態を誘発し、摘除4週後からテリパラチドを週3回、4週間投与した。足裏への刺激に対する逃避行動(疼痛行動)を解析した結果、OVXにより痛覚過敏が発症し、テリパラチドの投与はその痛覚過敏を改善することが確認された。また、その効果は、テリパラチドの本来の作用である骨組織への作用よりも早く、投与から数時間後に認められた。
そこで研究グループは、痛みを知覚する一次感覚神経に着目し、テリパラチドによる影響を詳細に解析した。PTH受容体の分布を調べたところ、一次感覚神経の細胞体の集合である脊髄後根神経節(DRG)に、PTH受容体が発現していることが観察された。続いて、DRGから神経細胞を取り出して培養し、テリパラチドを作用させたところ、細胞内シグナルの変化が認められた。さらにDRGでの遺伝子発現を調べたところ、テリパラチド投与によって疼痛関連因子の発現が変動し、特に痛みを軽減するための分子が増加することが明らかとなった。一次感覚神経が受けた痛み刺激は脊髄後角を経て脳へ伝達されるが、最近、脊髄後角のミクログリアという免疫担当細胞の活性化が、慢性的な痛みの原因の1つであることが報告されている。
今回の研究では、OVXによりミクログリアが活性化すること、テリパラチド投与がこの活性化を抑制することが明らかになった。同研究成果により、テリパラチドが、骨組織のみならず、神経系細胞にも直接作用し、骨形成とは独立したメカニズムにより疼痛軽減作用を発揮することが、世界で初めて明らかにされた。
研究グループは、「本研究は、これまで臨床的に報告されていたテリパラチドによる疼痛軽減作用に、科学的な考察を与えた。本研究の発展により、ロコモティブシンドロームに対する治療選択肢の拡大や、新たな疼痛治療薬開発に繋がることが期待される」と、述べている。
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