風邪コロナウイルス感染でCOPDや気管支ぜんそくが悪化する仕組みは未解明
東北大学は3月27日、一般に使用されている呼吸器疾患吸入薬が風邪コロナウイルスの増殖と炎症を誘導する物質の放出を抑えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科先進感染症予防学寄附講座の山谷睦雄教授、同医工学研究科聴覚再建医工学研究分野の川瀬哲明教授、同呼吸器内科学分野の一ノ瀬正和教授、国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンターの西村秀一センター長、東北公済病院耳鼻いんこう科の菅原充部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Respiratory Investigation」の電子版に掲載されている。
画像はリリースより
慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患や気管支ぜんそくは風邪ウイルス感染で症状が悪化することがあり、最悪の場合、呼吸不全で死亡することもある。成人では風邪ウイルスの中でライノウイルスが最も多く検出され、次にインフルエンザウイルスや風邪コロナウイルスが検出される。風邪コロナウイルスは RNA ウイルスの一種で、風邪症候群を生じる病原性の低いウイルス。新型コロナウイルスは風邪コロナウイルスとは別のタイプのウイルスだ。ライノウイルスやインフルエンザウイルス感染による症状悪化の仕組みは研究が進んでいる一方で、風邪コロナウイルス感染による症状悪化の仕組みはこれまで研究が行われていなかった。
呼吸器疾患吸入薬が風邪コロナの増殖と炎症誘導物質の放出を抑制
一般的に、ウイルス感染時の慢性閉塞性肺疾患や気管支ぜんそくの悪化予防に、気管支拡張薬や吸入ステロイド薬などの呼吸器疾患吸入薬が使用されている。今回の報告で研究グループは、一般に使用されている呼吸器疾患吸入薬が風邪コロナウイルスの増殖と炎症を引き起こす物質の放出を抑えることを明らかにした。
はじめに研究グループは、ヒト由来の呼吸器の培養細胞(気道上皮細胞)に風邪コロナウイルス(HCOV-229E)を感染させ、呼吸器疾患吸入薬がウイルスの増殖(放出量) に与える効果を調べた。その結果、細胞に気管支拡張薬(ムスカリン受容体拮抗薬、β2 アドレナリン受容体刺激薬)を添加すると風邪コロナウイルスの放出量が減少することが明らかになった。また、β2 アドレナリン受容体刺激薬を添加すると、風邪コロナウイルスが細胞に吸着するために必要な細胞表面に存在する受容体の量が減少した。さらに、気管支拡張薬を添加すると、ウイルスの遺伝子が細胞内に放出されるために必要な構造体(酸性エンドソーム)が減少した。これらの結果より、受容体および酸性エンドソームの減少がウイルス放出量の減少に関連していることが明らかになった。また、細胞に気管支拡張薬や吸入ステロイド薬を添加すると炎症を誘導する物質の放出量が減少した。
今回の研究結果から、慢性閉塞性肺疾患や気管支ぜんそくの治療に用いられる気管支拡張薬や吸入ステロイド薬が風邪コロナウイルスの増殖・放出を減少させ、炎症誘導物質の放出を抑制する効果があることが明らかになった。研究グループは、「呼吸器疾患吸入薬のこれらの効果が、風邪コロナウイルス感染時における慢性閉塞性肺疾患や気管支ぜんそくの悪化に対する予防に貢献していると考えられる」と、述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース