テロメラーゼの「不死化能阻害」ではがん治療できないことから、別の役割を探索
日本医療研究開発機構(AMED)は3月25日、細胞不死化酵素として知られているテロメラーゼに、細胞のがん化に深く関わる別の新しい機能があることを明らかにしたと発表した。この研究は、国立がん研究センター研究所がん幹細胞研究分野の増富健吉分野長、金沢大学附属病院総合診療部の山下太郎准教授および医薬保健研究域医学系の金子周一教授、東北大学大学院医学系研究科抗体創薬研究分野の加藤幸成教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
がん細胞には不死化能があるのに対して、正常細胞には不死化能がない。約30年にわたり多くの研究者によって、がん細胞はどのようにして細胞不死化能を獲得するのかという研究が行われ、1997年に細胞不死化酵素としてテロメラーゼが発見された。その後、世界中のがん研究者によって、テロメラーゼ阻害薬の開発が進められてきたが、がん治療として十分に効果がある薬剤は開発できなかった。
近年、国際共同研究「がん全ゲノム解読」によりテロメラーゼが大変重要であることが改めて証明された。例えば、C型肝炎関連肝臓がんなどでは、患者検体を用いた大規模ゲノム解析で、約7割の症例でテロメラーゼが発がん過程における最も重要な分子であることが報告されている。また、これまでは、テロメラーゼの役割は唯一、「細胞に不死化能を付与する」ものと理解されてきたが、「テロメラーゼの細胞不死化能を阻害する」という考え方に基づくと、がん治療薬の開発が順調に進展しなかったことなどから、テロメラーゼには別の働き(新たな機能)があるのではないかと考える研究者らが出てきた。このような背景の下、研究グループは、1)新たなテロメラーゼの分子機序の探索、2)テロメラーゼの新たな機能が、がん細胞で活発に作用しているのか、3)どのようにしてテロメラーゼの新たな機能のスイッチが入るのか、に関して研究を進めてきた。
スイッチオフで、がん細胞としての特徴を消失する「テロメラーゼの新たな機能」を発見
今回、研究グループは、テロメラーゼとの関連が示されている肝臓がんと膵臓がん患者からの手術検体等を用いた解析を実施。その結果、テロメラーゼの新たながん化機能が肝臓がんや膵臓がんのうちでも悪性度が高いものほど活発であり、この機能の作用が強いほど予後が悪いことが明らかとなった。
そこで、このテロメラーゼの新たな機能のスイッチがどのように制御されるのかについて調べたところ、CDK1という分子がテロメラーゼをリン酸化することでスイッチを入れていることが判明。CDK1の機能を阻害してみると、細胞不死化酵素としての機能には何の影響も及ぼさない一方、テロメラーゼの新たな機能は完全に阻害されることが確認された。これらのことから、このスイッチは、テロメラーゼの新たな機能のオン、オフをコントロールしているとわかった。
これまでは、テロメラーゼは、細胞不死化酵素としてがん細胞のがん細胞たる特徴を制御していると考えられていたが、今回の発見から、テロメラーゼの新たな機能が細胞のがん化に何らかの影響を及ぼしている可能性が出てきたため、研究グループは、その可能性に対する答えを探すために研究を継続。遺伝子編集技術を用いて、テロメラーゼの新たな機能のみが働かなくなった細胞を作製し、解析をした。その結果、この細胞では、正常な細胞と同じようにマウスで腫瘍を作らなくなった。これらの結果を総合的に判断すると、「テロメラーゼの新たな機能」だけを働かなくするだけで、もはやがん細胞としての特徴を持たなくなってしまうという結論が導き出された。
今回の研究により、テロメラーゼの新たな機能が、これまで想定していなかった分子群の関与により制御され、細胞のがん化に深く関与していることが発見された。研究グループは、今回の発見について、「テロメラーゼの新たな機能は広くがん種横断的に関わる可能性が考えられることから、肝臓がんや膵臓がんのみならず、多くのがん種に効果を発揮する新たな薬剤の開発につながる可能性が期待される」と、述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース