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視交叉上核が、眼圧の概日リズムを制御する仕組みを明らかに-愛知医大ほか

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2020年03月27日 PM12:00

眼圧リズムの制御に、グルココルチコイドとノルアドレナリンが関わっているのか?

愛知医科大学は3月19日、)が副腎グルココルチコイドおよび交感神経ノルアドレナリンによって、眼圧リズムを生み出す仕組みを、マウスを用いた実験で明らかにしたと発表した。これは、同大医学部生理学講座の池上啓介助教、増渕悟教授らの研究グループと、近畿大学の共同研究によるもの。研究成果は、米国科学誌「Investigative Ophthalmology & Visual Science」にオンライン公開されている。


画像はリリースより

緑内障は、日本における中途失明原因第1位の疾患で、有病率は40歳以上で5%と言われている。発症の最大リスク因子として「」があり、眼圧が上昇することにより、視神経が傷害されやすくなると考えられている。すでに複数の眼圧を下げる点眼薬が用いられているが、根治が難しく、新たな治療法の開発が喫緊の課題となっている。

生物の多くの生理現象は約24時間周期の概日リズムを持っているが、眼圧にも約24時間の概日リズムがあり、眼圧は昼行性夜行性動物ともに夜に上昇する。そのリズムは毛様体における「眼房水」の産生流入と、シュレム管からの流出のバランスによって決まり、脳視床下部に位置する体内時計の中枢であるSCNが制御していると考えられているが、その仕組みは不明だった。

多くの末梢組織の概日時計は、SCNからのシグナルを受け取った副腎から分泌されるグルココルチコイドと、交感神経から分泌されるノルアドレナリンによってリセットされる。しかし、眼圧においては、副腎を除去するとネズミにおける眼圧概日リズムの振幅も減少するが、ヒトでは副腎除去は影響がない。一方、上頚神経節からの交感神経シグナルは毛様体周辺に投射し、瞳孔反射を制御している。事実、アドレナリン受容体などの関連薬は緑内障治療に用いられている。しかし、アドレナリンβ1β2受容体ノックアウトマウスでは、眼圧リズムが維持されている。そのため、グルココルチコイドと交感神経だけでは眼圧リズム制御を説明できなかった。

そこで研究グループは今回、眼圧リズムの制御に、グルココルチコイドとノルアドレナリンの両方が関わっているのではと考え、副腎・上頚神経節除去した時の眼圧リズムへの影響を検証した。

眼圧リズムはグルココルチコイドとアドレナリンにより制御、毛様体上皮の時計には依存せず

研究グループが、マウスの副腎と上頚神経節の両方を外科的に除去したところ、恒暗条件下で眼圧リズムは夜間の上昇が抑制されるかたちで消失した。そこで、グルココルチコイドまたはノルアドレナリンの点眼投与により眼圧リズムが消失したマウスで眼圧の日内変動が回復するかを検討した。その結果、点眼時刻に関わらず眼圧リズムが回復し、その位相は点眼時刻に依存していた。つまり、両方が制御因子であることが判明した。

次にグルココルチコイドおよびノルアドレナリンのターゲット部位を同定するため免疫組織化学により、グルココルチコイド受容体(GR)とβ2アドレナリン受容体の発現を解析したところ、眼房水産生部位である毛様体の無色素上皮細胞のpars planaで強く発現していることが判明した。そこで、時計遺伝子Per2の下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子を導入したマウスを用いて、毛様体組織培養におけるPer2の発現リズムを時系列測定し、副腎除去や上頚神経節除去の影響を解析した。その結果、副腎除去や上頚神経節除去では、Per2リズムが大幅に減衰し、位相がずれてしまうことが判明した。これらは、グルココルチコイドやノルアドレナリンが毛様体に作用し、そこの概日時計を制御していることを示唆している。

さらに、毛様体時計の眼圧リズム形成への関与を明らかにするため、毛様体特異的時計遺伝子Bmal1ノックアウトマウスを作製し、毛様体の概日リズムが消失したマウスを作製し、眼圧リズムへの影響を検証した。すると、眼圧リズムが消失するという予想とは異なり、そのリズムは維持され、眼圧リズムを生み出すには毛様体の局所時計は必要ないことが明らかになった。これらの結果から、眼圧リズムは副腎グルココルチコイドと交感神経アドレナリンにより制御され、毛様体上皮の時計に依存しない仕組みであることが示唆された。

概日分子メカニズムの解明が緑内障の時間依存治療や新規治療薬の開発につながる可能性

今回の研究成果により、眼圧リズムはグルココルチコイドと交感神経により制御され、毛様体上皮の時計に依存しないという調節機構が明らかになった。しかし、眼房水の流出経路(線維柱帯流出路とぶどう膜強膜流出路)の概日制御機構は不明のままであり、眼圧リズムを生み出すメカニズムは、完全には解明されていない。

研究グループは、「副腎グルココルチコイドと交感神経アドレナリンの相互作用、および概日分子メカニズムに関するさらなる研究は、緑内障の時間依存治療や新規治療薬の開発に役立つことが期待される」と、述べている。(QLifePro編集部)

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