腸内細菌叢による代謝が協調的に作用し、セレンが効率よく生体内に取り込まれる
千葉大学は3月19日、体の中では非常に微量にしか存在しないものの、健康の維持には必須であるセレン(Se)という元素が、腸内細菌叢による代謝が協調的に作用することにより、効率よく生体内に取り込まれる仕組みを解明したと発表した。これは、同大大学院薬学研究院 予防薬学研究室の小椋康光教授と同医学薬学府博士課程3年の髙橋一聡大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、食品化学分野の専門誌「Food Chemistry」に掲載されている。
画像はリリースより
セレンは、ヒトの生体維持にとって必須のミネラルだが、例えば体重60kgの場合、体内にわずか10mg程度しか存在していない。しかし、セレンが欠乏すると、髪の毛や爪が脱落したり、重度の場合は死亡することもある。
ヒトは、セレンを肉、魚および野菜などから摂取しており、成人男性の1日あたりの推奨摂取量は30μg(マイクログラム、10-6グラム)とされている。食べ物に含まれるセレンの分子形態は多様で、糖やアミノ酸の形をしていたり、塩の形をしていたりする。このように、さまざまなセレン化合物は、それぞれの化学構造によって体内への吸収のされやすさなど、栄養学的な価値が異なるものと考えられていた。その一方で、肉、魚あるいは野菜の嗜好(好き嫌い)でセレンの欠乏を来すという事例は報告されていなかった。セレンは、体の中の存在量、1日あたりの必要量、食事中の含量などにおいて存在量が小さく、その詳細な消化・吸収・代謝・排泄の仕組みの解明に課題が残されていた。
小児では腸内細菌によるセレン代謝のサポートが期待できないため、より慎重なセレンの配合の考慮が必要
研究グループは今回、セレンの代謝に腸内細菌が関係しているという仮説のもと、ラットを用いた実験を行った。その結果、宿主であるラットが摂取したさまざまな化学構造のセレン化合物は、腸内細菌叢によって特定の化学構造を持つセレン化合物、セレノメチオニンへと代謝されることが明らかになった。これは、腸内細菌によって、宿主がセレノメチオニンという単一の栄養源として利用できるよう変換されることを意味しており、食事の嗜好によって摂取するセレン化合物に偏りがあっても、腸内細菌叢が宿主のセレン利用を補助する体内機構があることが明らかになった。
さらに、セレンの代謝の機構を詳細に調べたところ、セレン化合物から代謝されたセレノメチオニンは、腸内細菌の菌体内で貯蔵されているということも判明した。
これらの結果から、食品中から微量にしか摂取できないセレン化合物を腸内細菌叢がセレノメチオニンとして代謝し、さらに貯蔵するという協調的な作用により、効果的なミネラル摂取のサポートをしていることが明らかになった。このようなミネラル代謝における腸内細菌叢の役割が解明されたのは、初めてのことだという。
研究グループは、「今回のラットを使った研究結果により、人間にも腸内細胞叢によるセレン代謝の仕組みがあることが示唆される。長期に中心静脈栄養を摂取している患者や、特殊な栄養成分のミルクを飲んでいる乳児は、セレンの欠乏症状がしばしば見られる。重度のセレン欠乏になると命に関わる症状が現れるため、輸液や粉ミルクにはセレンが添加されるが、消化管を経由しないセレンの摂取や、腸内細菌叢が未熟な小児では、腸内細菌によるセレン代謝のサポートが期待できないため、今後はより慎重なセレンの配合を考慮する必要があると言える」と、述べている。
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