重篤な神経変性障害であるプリオン病、狂牛病やクロイツフェルトヤコブ病など
京都大学は3月19日、プリオン病につながるタンパク質の構造変化を抑制するRNA分子(RNAアプタマー)の開発に成功したと発表した。この研究は、同大エネルギー理工学研究所の片平正人教授、真嶋司同助教らと、岐阜大学などの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
プリオン病は重篤な神経変性障害で、この一種である海綿状脳症(通称、狂牛病)にかかったウシは、ふらふらとして、立っていられずに倒れてしまうなどの症状が現れる。ヒトにおいても、ウシと似たような症状が現れるクロイツフェルトヤコブ病というプリオン病の一種がある。プリオン病は、哺乳類が有するプリオンタンパク質が正常型から異常型へ構造変化することで生じる。そこで、プリオン病の治療薬を開発する為に、この構造変化を抑制する効果がある物質(低分子化合物、抗体、ナノボディ、アプタマー)を見出す研究が行われてきた。
抗プリオン病治療薬の開発や、アルツハイマー病治療薬への応用にも期待
今回、研究グループは、正常型のプリオンタンパク質に強く結合するRNA分子(RNAアプタマー)を探索、デザインし、取得した。得られたRNAアプタマーは正常型に強く結合して、これを安定化することで異常型への構造変化を抑制することが期待できる。そこで、まずこのRNAアプタマーの抗プリオン効果を、細胞実験によって検証した。次に、RNAアプタマーの立体構造を決定することで、高い結合能効果や高い抗プリオン効果を発揮するメカニズムを解明した。
まず、プリオンタンパク質に強く結合するRNAアプタマーを探索・デザインした結果、24残基および25残基からなる、2つのRNAアプタマー(R24:r(GGAGGAGGAGGAGGAGGAGGAGGA)およびR12-A-R12:r(GGAGGAGGAGGAAGGAGGAGGAGGA))を得た。異常型のプリオンタンパク質を定常的に産生する細胞に、これらのRNAアプタマーを添加した結果、異常型プリオンタンパク質の生成量が劇的に抑制されたという。すなわち、これらのRNAアプタマーが高い抗プリオン活性を有することが、細胞レベルの実験で証明された。抑制活性の強さの指標であるIC50(50%阻害濃度:異常型プリオンタンパク質の生成量を半分まで抑制するのに必要なRNAアプタマーの濃度)の値は100nM(ナノモーラー:1リットルあたり10億分の1モルの濃度を表す)だった。これは、ある種の抗体を除けば、これまでに知られている抗プリオン物質の中で最も低い値であり、非常に高い抑制活性を有することがわかった。
次に、RNAアプタマーの立体構造を、核磁気共鳴(NMR)法によって決定。分子内に形成された2つの4重鎖が積み重なった特異な構造であることが判明した。得られた立体構造に基づいたモデルビルディングの結果、積み重なった4重鎖の両端がプリオンタンパク質中の2箇所と同時に結合することで、プリオンタンパク質への高い結合能、高い抗プリオン活性がもたらされていることが合理的に説明されたとしている。
今回、同RNAアプタマーが、異常型プリオンタンパク質の生成を抑制する高い活性を有することが細胞実験で示されたことで、この分子をベースとした抗プリオン病治療薬の開発が期待されるという。プリオンタンパク質は、アルツハイマー病に関連するアミロイドβタンパク質の受容体として、病因性シグナルの神経細胞内への伝達に関与している。RNAアプタマーはプリオンタンパク質に強く結合することでプリオンタンパク質の受容体能を不活性化し、病因性シグナルの神経細胞内への伝達をブロックできる可能性があるとし、同RNAアプタマーはアルツハイマー病治療薬への応用も期待される、と研究グループは述べている。
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・京都大学 プレスリリース