病態メカニズムが未解明の優性遺伝性脳小血管病で、脳梗塞や認知症を引き起こす
国立循環器病研究センターは3月16日、遺伝性脳小血管病CADASIL患者のiPS細胞から血管壁細胞を分化誘導し、その病態を試験管内で再現することに成功したと発表した。これは、同研究センター脳神経内科の猪原匡史部長と病態代謝部の山本由美非常勤研究員らの研究チームが、京都大学iPS細胞研究所の井上治久教授、同大糖尿病・内分泌・栄養内科の曽根正勝特定准教授らの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Molecular Brain」でオンライン公開されている。
画像はリリースより
希少難病CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)とは、血管壁細胞(ペリサイト、血管平滑筋細胞)に特異的に発現する、一回膜貫通型受容体NOTCH3遺伝子の変異による優性遺伝性脳小血管病。CADASIL患者は、毛細血管や細動脈などの小血管の狭窄や血管平滑筋細胞の変性などの病的変化により、脳梗塞や脳の深部の神経線維が障害される白質障害、さらには認知症を発症するが、その病態メカニズムは未だ解明されておらず、現状では治療法も存在しない。
これまで有病率は、人口10万人あたり数人といわれていたが、最近のゲノム解析では、CADASILを起こし得るNOTCH3遺伝子の変異を100人に1人が持つという報告もあることから、脳梗塞の治療薬開発のために、病態を再現するモデルを用いた病態メカニズムの解明が強く望まれている。
病態メカニズムの解明だけでなく、治療薬の探索に利用されることに期待
研究グループはまず、既存の血管内皮細胞の分化誘導手法を改良し、成熟した血管壁細胞を患者のiPS細胞から分化誘導する手法を確立。この新たな手法により分化誘導したCADASIL iPS細胞由来壁細胞において、CADASILの病態としてこれまでに知られているNOTCH3タンパク質の細胞外部分の凝集、細胞骨格アクチン繊維の構造異常、およびPDGFRβの増加が再現されていることを確認した。
また、CADASIL患者の血管壁に観察されるGOM(Granular osmiophilic material)と呼ばれる凝集体が再現され、CADASILに見られるように、NOTCH3細胞外部分とHtrA1というタンパク質が含まれていた。これは、患者iPS細胞由来の壁細胞が、CADASILの病態モデルとして信頼できることを示すという。
さらに、健常コントロール群との比較の結果、CADASILの壁細胞において細胞遊走能が亢進しており、これに変異NOTCH3と過剰発現したPDGFRβが関わっていることが示唆された。
PDGFRβは、血管壁細胞の増殖と遊走の切り替えに関与することが知られている。CADASILの壁細胞では、PDGFRβ過剰発現により、血管新生の際の増殖と遊走の切り替えが正常に働かなくなった結果、血管形成や構造の不安定化につながり、CADASILを引き起こすのではないかと考えられる。研究グループは、「今後、CADASILの病態モデルにより、詳細な病態メカニズムの解明だけでなく、治療薬の探索に利用されることが期待される」と、述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース