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微生物由来新規酵素がACE2様の薬理活性、新型コロナ治療に有用の可能性も-秋田大ほか

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2020年03月18日 AM11:00

ACE2は心不全改善やSARSの重症化阻止に有用だが、治療薬として大量精製が困難

秋田大学は2月27日、白神山地の土壌から分離した微生物の産生する新しい酵素B38-CAPがヒトのアンジオテンシン変換酵素2()タンパク質の構造とよく似ており、生体内でACE2と同等の薬理活性を示すことにより心不全や高血圧の症状を改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の久場敬司教授らの研究グループが、国際農林水産業研究センター(国際農研)、、医薬基盤・健康・栄養研究所、国立循環器病研究センター、、ペプチド研究所との共同研究としておこなったもの。研究成果は、「Nature Communications」の電子版に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトACE2は、SARSや新型コロナウイルス感染の受容体であることで知られているが、2000年の発見当初は血圧上昇物質アンジオテンシンIIを分解することにより血圧を降下させる酵素として見出された。秋田大学の久場敬司教授と医薬基盤研究所の今井由美子プロジェクトリーダーは、2002年よりヒトACE2の研究に取り組み、ACE2の酵素活性が心不全や高血圧の症状改善などに加えて、SARSや敗血症による重症肺炎(急性呼吸窮迫症候群)の呼吸不全を改善することを解明した。一方で、ヒトを含む哺乳類のACE2は糖鎖構造を持つことから、組換え型のヒトACE2酵素を治療薬として大量に取得することが困難で、これが医薬開発での障害となっていた。一方、2006年に秋田県総合食品研究センターの高橋砂織氏らが白神山地土壌から分離したD-アスパラギン酸特異的エンドペプチダーゼ生産菌Paenibacillus sp. B38は、国際農研での全ゲノム解析から多くの有用酵素遺伝子を持つことが示唆されていた。

マウスにB38-CAP投与で心不全や高血圧に対する治療効果を解明

今回、研究グループによる解析から、Paenibacillus sp. B38菌株の遺伝子産物の1つにヒトACE2と似通ったタンパク構造を持つ酵素B38-CAPが存在することが判明。また、試験管内でB38-CAPタンパク質の諸性質がヒトACE2と酷似している一方で、微生物のタンパク質生産系で短期間に大量に取得できることを見出した。そこで、研究グループは、B38-CAPタンパク質がヒトACE2と同様に心不全や重症肺炎を改善すると仮定し、生体におけるB38-CAPの薬理作用や調節機能を明らかにするために種々の動物実験を実施した。まず、B38-CAPをマウスに投与して生体内での血行動態や毒性について調べたところ、ヒトACE2と同程度に安定な血中濃度が維持され、異種タンパク質による毒性や免疫拒絶反応などは見られなかった。次に生体内でB38-CAPがACE2様の酵素活性を発揮するかを調べたところ、マウスに投与されたB38-CAPはACE2と同等にアンジオテンシンIIを分解し、アンジオテンシンIIによって誘導される高血圧を改善した。さらにマウス心不全モデルで検討したところ、B38-CAP投与は心収縮率の低下、心肥大、組織の線維化といった心不全の所見を顕著に改善した。重要なことに、B38-CAPの治療効果は心不全や高血圧の病態が確立した後から投与しても症状の改善が認められた。したがって、B38-CAPは微生物由来の最初の循環器疾患や重症肺炎の治療薬となることが考えられた。

現在、新型コロナウイルス感染において、高齢者や心不全や糖尿病など持病のある人で肺炎が重症化することが問題となっている。B38-CAPには、ACE2同様に新型コロナウイルス感染に対して、特に心不全などの基礎疾患を有するヒトの重症化阻止効果が期待される。また、今後B38-CAPの医薬品としての開発が進めば、現在ACE2以外のコストと時間のかかる他のタンパク質製剤についてもB38-CAPのように「ジェネリック」タンパク質製剤で代替する動きが加速することが考えられるという。さらに、研究グループは、「ヒトで病気の症状改善に重要な酵素が、微生物でも保存されていたことは、今後のタンパク質製剤の開発において微生物のタンパク質構造を参考にして治療効果や生産効率の高いヒトタンパク質薬剤をデザインし合成できるようになることも期待される」と、述べている。

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