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運動が筋の再生を促す場合と炎症を悪化させる場合がある仕組みを解明-札幌医科大ほか

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2020年03月17日 AM11:30

なぜ運動刺激が筋再生を促す場合と、炎症や線維化を助長する場合があるのか

札幌医科大学は3月6日、正常マウスに対してエクササイズを行うと、骨格筋の間葉系前駆細胞(Fibro-adipogenic progenitor;FAP)が細胞老化をおこし、筋の再生が促されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部解剖学第二講座の齋藤悠城助教と藤宮峯子教授、北海道大学大学院保健科学研究院の千見寺貴子准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

慢性炎症性筋疾患は持続する炎症や線維化をきたし、筋機能を低下させる。副腎皮質ステロイドは有効な治療法のひとつだが、筋機能を十分に回復させるためにはそれだけでは不十分であり、運動介入の重要性が増している。慢性炎症性筋疾患に対する運動は、筋機能を回復させる有効な治療法であることが報告されているが、すべての症例で有効なわけではなく、場合によっては炎症や線維化を悪化させてしまう危険性も有している。なぜ、運動刺激が筋再生を促す場合と、炎症や線維化を助長する場合があるのか、その運動刺激の二面性を説明するメカニズムは不明な点が多く残されていた。そこで今回の研究では、筋再生と変性の両方に深く関わるFAPに着目。筋再生と変性時に活性化するFAPの特徴をそれぞれ解析したところ、細胞老化システムがその鍵を握っていることを発見し、研究を進めた。

エクササイズによって間葉系前駆細胞が「」を起こして筋の再生を促す

研究グループは、急性筋炎モデルマウスと慢性筋炎モデルマウスを用いて、FAP が細胞ダメージに応答して活性化するときの表現系の変化を解析。また、細胞老化を制御する遺伝子のひとつであるTrp53遺伝子のノックアウトマウスを用いて、FAPにおける細胞老化因子の機能的意義を検討した。さらに、慢性筋炎モデルマウスに運動介入及び薬物治療を行い、筋の再生・変性メカニズムの同定と治療効果の検討を行った。

その結果、治る炎症である急性炎症モデルマウスでは、FAPが強い細胞老化因子の発現を呈する一方、慢性筋炎モデルマウスではFAPの細胞老化因子の発現は弱く、過剰な増殖性の獲得、細胞死に対する抵抗性、さらには免疫回避機構を示すことで骨格筋に蓄積することを明らかにした。細胞老化とは、ダメージを受けた細胞がしばしば呈する現象で、細胞老化に伴いSenescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)と呼ばれる現象を起こし、免疫細胞の動員を増加させる。老化した細胞は免疫細胞によってクリアランスされ、正常な組織リモデリングが完了することが明らかになっており、それは組織の恒常性を維持するために身体に備わった重要なシステムだ(細胞老化-クリアランス-リモデリング連鎖)。つまり、慢性筋炎における不十分な細胞老化を呈するFAPは免疫細胞によるクリアランスが十分に行われず、蓄積し、組織リモデリングが完了しないのではないかと考えられた。

そこで、FAPにおいて細胞老化システムが正常に働かないことが、筋再生の誘導を阻害するという仮説を明らかにするために、細胞老化を制御する因子の1つであるTrp53遺伝子が機能しないマウスのFAPを正常なマウスの骨格筋に移植して、その後、急性炎症を誘導した。その結果、正常なFAPを移植したマウスでは急性炎症後、20日で筋再生が認められたが、細胞老化が機能しないFAPを移植したマウスでは、急性炎症20日後でも十分な筋再生が認められず、慢性的な炎症と線維化をきたした。このことから、ダメージに応答して老化するFAPが筋再生に不可欠であることが明らかになった。

骨格筋の慢性炎症に「細胞老化の誘導」が有効な可能性

次に、運動刺激に応答してFAPの細胞老化を誘導することができれば、筋再生を促すことができるという仮説のもと、正常及び慢性筋炎モデルマウスに運動刺激を与えた。結果、正常マウスではFAPにおける細胞老化因子及びSASPの発現が運動刺激によって亢進し、筋肥大を認めた一方で、慢性筋炎モデルマウスでは運動後にFAPにおける細胞老化因子の発現が低下し、さらに線維化を促進する因子であるTgfb1やActa1といった遺伝子の発現が亢進した。そこで、FAPの細胞老化を誘導するため、AMPK活性剤であるAICARと運動の併用治療を慢性筋炎モデルマウスに行ったところ、FAPの細胞老化を誘導し、さらに筋機能の改善効果をもたらした。

今回の研究により、ダメージに応答して細胞老化因子の発現を亢進させるFAPが筋再生に重要であることが明らかとなった。これにより、運動刺激がなぜ、筋再生を促す場合と線維化や炎症を悪化させる場合があるかという、臨床上の問題点を解決する、新しいメカニズムのひとつが提示された。研究グループは、「今後、慢性炎症性筋疾患に対する安全で効果的な治療につながることが期待できる」と、述べている。

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