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【北里大 熊谷教授】FIH試験の指針作成へ-抗てんかん薬死亡例受け

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2020年03月16日 AM10:15

北里大学の熊谷雄治教授は、薬事日報の取材に、「E2082」の国内ヒト初回投与試験(FIH試験)で健康成人被験者の死亡例が発生したことについて、「中枢神経系のFIH試験では、早期臨床試験に理解がある精神科医との連携体制が求められるが、専門家が少ない」と問題点を指摘した。臨床薬理試験施設の協議機関「臨床試験受託事業協会」では、年内をメドにリスク対応を含めたFIH試験に関する指針を作成する計画で、「治験責任医師になる人たちには早期臨床試験に関する一定の講習を義務づけ、講習完了時には証明書でスキルを認定するような教育制度も検討したい」との意向を示した。

■精神科医の専門家少なく

「E2082」の国内第I相試験に参加した20代男性は、反復投与試験の終了後に幻聴・幻視、めまいを訴え、退院後に電柱から飛び降りて死亡した。PMDAが調査を実施し、昨年11月に厚生労働省から「治験薬との因果関係は否定できない」との調査結果が発表された。

熊谷氏は、「通常はアナフィラキシーショックや薬理作用に基づく副作用が多いが、おそらく薬の作用が切れてから症状が現れる退薬症候ではないかと思う」との見方を示す。

中枢神経系薬剤では、薬の摂取を止めた後に退薬症候が発現すると言われているが、「極めてまれな事象であり、第I相試験で退薬症候による副作用事例は聞いたことがない」と印象を話している。

健康成人被験者の死亡例は国内初となるが、熊谷氏は「調査結果報告書を見る限り、試験計画や試験の実行、被験者のケアでは大きな問題は見当たらなかった」とした。

また、健康成人被験者に重篤な副作用を引き起こした「TGN1412事件」や「レンヌ事件」のような海外第I相試験とは、「別の問題として考える必要がある。FIH試験の実施に必要以上の制限をかけるのではなく、予見しづらいリスクにどう対応していくかが今回の教訓ではないか」と述べた。

臨試協では、年内をメドにFIH試験に関する指針を作成する方針である。まずは第I相試験を実施している会員施設を中心に、被験者保護や安全性確保などリスク対応を念頭に置いたFIH試験の実施体制を整備し、全体に浸透させていきたい考え。

熊谷氏は、中枢神経系疾患を対象としたFIH試験で副作用が起こった場合の対応として、「早期臨床試験に理解のある精神科医との連携システムの確立が必要」と述べ、精神科を持たない治験実施医療機関でも専門家にアクセスできる環境の重要性を訴える。

調査報告書には精神科医を治験責任医師、分担医師に加えることを推奨する記載があるが、「精神科医であるだけでは、今回起きたようなリスクに対応することは難しい。FIH試験の特殊性をどこまで理解しているかが専門家の要件として求められる」と指摘する。

中枢神経系を対象とした早期臨床試験は、他の疾患に比べても非臨床試験データの解釈力などで高度な知識やスキルが求められ、国内でも専門家が少ない。そこで臨試協では、専門家の育成を目的に、治験責任医師を対象に早期臨床試験に関する一定の講習を義務づける教育制度も検討する方向である。

熊谷氏は、「全ての講習を完了した受講者には、資格とまではいかなくても、証明書を付与するような形で制度化できたらいいと思っている」と述べ、製薬企業が第I相試験で治験責任医師を選定する場合の判断材料として役立てたい考えを示している。

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