日常的な公共交通機関利用者の所得による歯科受診格差を検討
東北大学は3月11日、公共交通機関を利用している人は歯科医院に通院しやすく、受診の格差も少ないことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の相田潤准教授、歯科医師の木内桜氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Community Dentistry and Oral Epidemiology」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
「全ての人や集団が必要としている治療や予防のケアを受けられる状態にある」というユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)が国際的に推進されており、歯科領域においても重要性が指摘されている。う蝕や歯周病といった口腔疾患は、非常に有病率が高く治療も高額であることから、口腔の健康もUHCに含まれるべきであると指摘されている。
日本では皆保険制度が実現されており、歯科治療の多くがカバーされている。そのため、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも自己負担額が低く、歯科受診回数が多いことで知られている。しかし、このアクセスの良さにも関わらず、低所得者においては歯科受診回数が少ないことが報告されている。自宅から歯科医院への距離や公共交通機関利用も歯科受診に影響すると考えられ、イギリスやカナダでは高齢者が無料でバスを利用できる「敬老パス」がバス利用頻度を上げ、健康を向上させる可能性が報告されている。そのため、公共交通機関の利用に関する研究は重要であるが、これまで公共交通機関利用と所得による歯科受診格差について検討した研究は見られなかった。そこで同研究においては、日常的な公共交通機関利用者において、非日常的利用者と比べた際に所得による歯科受診格差について検討した。
公共交通機関を利用しやすい環境を整えることで、特に男性の歯科医院へのアクセス格差縮小の可能性
今回の研究では、2016年に実施した日本老年学的評価研究機構(JAGES)調査に回答した65歳以上の地域在住高齢者のデータを使用し横断研究を実施。性別や年齢に欠損のない1万9,664人を解析対象者とした。従属変数を「一番最近の歯科治療受診はいつか」という変数とし、6か月以内を「3」、6~12か月を「2」、1~3年以内を「1」、3年以上もしくは行ったことがないを「0」の4カテゴリーで分類し点数化した。独立変数を日常的な公共交通機関の利用(している/していない)と等価所得(100万円ごとの連続値)とした。共変量には個人レベルの変数として、年齢、教育歴、婚姻歴、主観的健康感、歯の本数、近くにバス停や駅があるかどうか、車の利用、地域レベルの変数として、歯科医院密度を調整した。欠損値に対しては多重代入法による欠損値補完を行い、性別で層化し、マルチレベル線形回帰分析を行った。
解析対象者1万9,664人(男性9,118人、女性1万546人)の平均年齢は73.8(SD=6.1)歳で、高所得者、女性で多く歯科治療を受診していた。公共交通機関利用者の中で、6か月以内に歯科治療を受診したのは男性で45.5%、女性では56.1%であった。共変量を調整した上でも、日常的に公共交通機関を利用している人は歯科治療を受診しており(男性:β=0.109, 95%信頼区間(CI)=0.051-0.166 女性:β= 0.094, 95%CI=0.039-0.149)、また高所得者の方が歯科治療を受診していた(男性:β=0.046, 95%CI=0.029-0.062 女性:β=0.029, 95%CI=0.013-0.045)。また日常的に公共交通機関を利用している人の間で歯科受診格差が小さい傾向にあったが、男性でのみ交互作用項は有意に小さかった(交互作用項のP値 男性:0.025, 女性:0.188)。
今回、所得による歯科受診の格差は公共交通機関利用者の間で小さく、特に男性において有意であったことから、人々が公共交通機関を利用しやすい環境を整えることが、特に男性の歯科医院へのアクセスの格差を縮小させる可能性があるといえるという。
同研究は、公共交通機関利用と歯科受診の所得による格差を検討した初めての論文であり、特に男性において、歯科治療の受診格差が、日常的な公共交通機関利用と関連していることを示した。現在、日本においては人口減少が進んでいることから公共交通機関などは縮小傾向にある。しかし、イギリスやカナダの事例において高齢者に無料の敬老パスなどを導入したことで高齢者の公共交通機関利用が増加し、健康への良い影響も見られていることから、日本においても交通の便を良くすることが歯科受診を良好にさせる可能性があると考えられる、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース