新型コロナウイルス検査をめぐっては、6日から遺伝子検査(PCR検査)が保険適用となったことを受け、エスアールエルなどの複数企業が臨床検査の受託開始を発表。感染研のマニュアルに準拠した検査法を導入し、検査拠点の拡大を図っている。
ただ、現状では医療機関での検査に4~5時間かかり、さらに検査センターに検体が送られ、長ければ検査結果が出るまでに数日かかる。今後、感染拡大の懸念もあるため、より迅速で簡便な診断法が求められており、研究機関と企業が相次いで新たな診断法開発に着手している。
神奈川県衛生研究所と理研は先月、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の検体から分離した新型コロナウイルスの3株から、迅速に検出できる試薬を開発したと発表。理研の独自技術「スマートアンプ法」により、既存のPCR装置をそのまま活用し、より単純な工程で迅速・簡便に検出できることが実証できたとしている。今後は研究機関や大学、医療機関とも連携した実証研究を進め、体外診断薬として供給できるよう検討している。
民間企業では、杏林製薬が昨年10月、産業技術総合研究所の技術を応用し、小型の高速遺伝子定量装置「GeneSoC」を発売。感染症などの診断で用いることを想定していたが、新型コロナウイルス検査への応用に向け、現在試薬を開発しているところだ。実用化できれば、検査時間を1時間以内に抑えることができるという。
感染研は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、迅速診断キットの開発を行っており、複数の企業と連携し、PCR検査法と抗原抗体反応(免疫反応)を用いた血清抗体診断法に対する迅速診断キットの開発を進めている。
PCR検査法の開発では、キヤノンメディカルシステムズが参画を表明。栄研化学の遺伝子増幅法「LAMP法」を原理としたRNA検出試薬を用いて、キヤノンの小型等温増幅蛍光検出装置で検出する取り組みに乗り出した。血清抗体診断法については、富士レビオの全自動化学発光酵素免疫測定システム「ルミパルス」シリーズや迅速診断キット「エスプライン」シリーズを活用し、迅速診断キットの開発を目指す。
栄研化学は、迅速診断キットの独自開発にも取り組んでいる。自社のLAMP法を活用し、販売中のリアルタイム濁度測定装置を活用し、検体から検出するまでの時間を4~5時間から1時間以内にまで短縮することを目指し、早期に供給を開始できるよう開発を急いでいる。
そのほか、島津製作所もRNA抽出工程を省いたPCR検査法の開発に着手した。1カ月に数万検査分の供給体制の確立を目指す。デンカ生研も一般の医療機関でも使用可能な簡易検査キットの開発に着手した。日水製薬は、今月に英ランドックスが開発した専用検査機器と研究用試薬を販売する予定である。
さらにシスメックスは、免疫反応を用いた検査法の開発を視野に入れる。試薬を開発した上で、別の疾患で用いる既存品の免疫測定装置と、クリニックなどに設置可能な開発中の小型免疫測定装置を応用し、既存のPCR法より安価で簡便・迅速な検査法の確立を目指す。
バイオベンチャーも新型コロナウイルス検査薬の開発に参入している。大阪大学発ベンチャー「ビズジーン」は、核酸クロマト法を用いて、唾液を検体とした検査キットの開発に着手。妊娠検査キットのような形状を想定しており、医療機関での高価な設備投資も不要で、安価に導入できる。
PCR法と比較すると感度が低いため、感染初期でウイルスを検出することは困難であり、発熱などの症状が出ている患者への使用を想定する。現在、クラウドファンディングを運用するREADYFORを通じて開発資金の調達を進めている。
マイクロブラッドサイエンスは、血液1滴で検査する診断法を開発している。新型コロナウイルスの侵入で産生される免疫グロブリンの検出で判定する仕組みであり、機器が不要でわずか10分で判定できる。
一方、横浜市立大学の梁明秀教授を中心とした研究グループは9日、ELISA法とイムノクロマト法を用いた新型コロナウイルス患者の血清中に含まれる抗ウイルス抗体の検出に成功したと発表した。発症後7~10日程度経過した肺炎患者で血清抗体の有無を調べることで、感染症の確定診断や治療法の選択に役立つとしている。今後、関東化学の試薬キット化技術と組み合わせることで実用化を目指していく。