薬剤による治療法があるものの、効果が十分ではない「壮年性脱毛症」
東京医科大学は3月6日、脱毛症や薄毛に悩む人たちを対象に、医師主導の臨床研究を行った結果、自家毛髪培養細胞を用いた細胞治療法に安全性と改善効果を認め、男女の壮年性脱毛症の新しい治療法になり得ることがわかったと発表した。この研究は、同大皮膚科学分野の坪井良治主任教授らの研究チームが、東邦大学医療センター大橋病院皮膚科の新山史朗准教授および株式会社資生堂再生医療開発室(細胞培養加工等担当)と共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of American Academy of Dermatology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
現在、脱毛症の中でも発症頻度の高い男女の壮年性脱毛症は重篤な疾患ではないが、外見に重大な影響を及ぼすことから、QOL向上の観点で、治療法開発が期待されている。治療法として、日本国内ではいくつかの薬剤等が用いられているが、継続的な服用が必要であることや、女性の場合は薬剤の選択肢が限られているなどの課題があり、また、それらの効果は男女を問わず十分ではない。
そこで研究グループは、細胞治療技術の安全性・有効性を確認し、脱毛症や薄毛に悩む幅広い人々に向けた細胞治療法の開発を目指して研究を行った。
6か月後、9か月後にプラセボと比較し毛髪が有意に増加、安全性も確認
研究グループは、東京医科大学特定認定再生医療等委員会にて承認された計画に基づき、毛球部毛根鞘(DSC)細胞加工物(以下、S-DSCTMと総称)を用いた自家培養細胞の頭皮薄毛部への注入施術の安全性と有効性を検討する臨床研究を実施。同意を得た被験者の後頭部から少量の皮膚組織(直径数ミリ)を採取した。それを細胞加工施設(資生堂細胞培養加工センター;SPEC(R))に輸送し、毛包DSC組織を単離、培養し、S-DSCTMを獲得した。
50人の男性と15人の女性被験者に対して、脱毛部頭皮の4つの異なる部位に、異なる量のDSC細胞またはDSC細胞を含まないプラセボ懸濁液を1回注射し、12か月後まで総毛髪密度、積算毛髪径、平均毛髪径を測定した。
その結果、DSC細胞を注射した部位の総毛髪密度と積算毛髪径は、6か月後および9か月後にプラセボと比較して有意に増加。有効性に性差はなかった。また、重大な有害事象も認められなかったという。
今回の研究では、S-DSCTMを薄毛部の小さな面積に1度だけ注射し、有効な細胞濃度を決定し、安全性を確認した。しかし、臨床で実際に治療法として使用するためには、薄毛部全体に複数回投与し、見た目でわかる治療効果と安全性を示す必要がある。研究グループは、そのための臨床研究を、今後実施する予定だとしている。
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