抗凝固薬内服中に脳梗塞を発症した心房細動患者を調べたデータは存在しない
国立循環器病研究センターは3月5日、抗凝固薬を内服中に脳梗塞を発症した心房細動患者では、抗凝固薬を内服していない状態で脳梗塞を発症した心房細動患者に比べ、脳梗塞の再発リスクが1.5倍高いことを解明したと発表した。この研究は、同センターの脳血管内科 溝口忠孝医師、同脳卒中集中治療科 田中寛大医師、同脳血管内科 吉村壮平医長、同脳血管内科 古賀政利部長、同豊田一則副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
心房細動は心臓の不整脈の一種。心房細動があると心臓の中に血栓が形成され、その血栓が脳に飛散することがあるため、脳梗塞を発症しやすくなる。抗凝固薬は血栓形成を抑制する働きがあり、脳梗塞予防を主な目的として、心房細動患者に使用されている。しかし、抗凝固薬で脳梗塞を完全に予防できるわけではなく、実際には抗凝固薬を内服しているにも関わらず、脳梗塞を発症する患者が多く存在する。抗凝固薬内服中に脳梗塞を発症した心房細動患者に、抗凝固薬の効果がうまく発揮できなくなるような原因が潜んでいる可能性があるため調査が非常に重要だが、現状ではそのようなデータは存在しない。
一方、研究グループは、国内18施設の多施設共同前向き研究である「SAMURAI-NVAF研究」に登録された症例データと、韓国15施設の多施設共同前向き研究である「CRCS-K研究」に登録された症例データから、心房細動を有する脳梗塞症例のデータをプールし、日韓合同でEAST-AF(East-Asian Ischemic Stroke Patients With Atrial Fibrillation)レジストリを構築している。
アジア人以外でも同様の患者は脳梗塞の再発リスク高く
今回研究グループは、抗凝固薬内服中に脳梗塞を発症した心房細動患者では、抗凝固薬を内服していない状態で脳梗塞を発症した患者に比べて、脳梗塞の再発リスクが高いのではないかと推察し、EAST-AFレジストリを用いて検証した。
日韓合同EAST-AFレジストリに登録された非弁膜症性心房細動を有する脳梗塞症例6,033名のうち、5,645名分のデータが本研究で解析可能だった。抗凝固薬を内服中に脳梗塞を発症した症例がそのうちの2割(1,129名)を占めていた。抗凝固薬内服中の脳梗塞症例と、抗凝固薬を内服していない状態で脳梗塞を発症した症例の2群に分類して1年間追跡し、脳梗塞や脳出血、死亡のリスクに違いがあるかを評価した。
解析の結果、抗凝固薬内服中に脳梗塞を発症した心房細動症例では、抗凝固薬を内服していない状態で脳梗塞を発症した心房細動症例に比べ、脳梗塞の再発リスクが1.5倍高いことが示された。脳出血と死亡のリスクについては、両群間で差がなかった。
また、SAMURAI-NVAF研究と欧州6研究の登録症例をプールしたデータの解析においても、同研究と同様に、抗凝固薬内服中に脳梗塞を発症した心房細動症例では、抗凝固薬を内服していなかった症例に比べ、脳梗塞の再発リスクが1.6倍高いことが示され、同研究とほぼ同時に「Annals of Neurology」に掲載されている。
この結果を受け、研究グループは「同研究と同様の結果がアジア人以外でも確認されたことから、抗凝固薬内服中に脳梗塞を発症した心房細動症例について、高い脳梗塞再発リスクのメカニズム解明、さらに、これらの高リスク症例に対する脳梗塞予防戦略の確立など、国際的な取り組みが必要だ」と、述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース