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アルツハイマー病の学習脳活動異常、マウスで視覚化に成功-東大ほか

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2020年03月05日 AM11:15

AD患者の15〜40%で見られる報酬関連行動の顕著な障害

東京大学は3月4日、)マウスの脳活動を全脳にわたり視覚化することに成功し、ADマウスの脳機能異常に関係して背側縫線核の活動が異常に高まっていることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻の久恒辰博准教授、同大大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻の櫻井圭介博士課程3年生、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所の住吉晃研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

現在、世界の認知症患者は5000万人で、患者数は2050年までに1億3千万人に達するとされている。ADは、認知症患者の60〜70%を占める神経変性疾患であり、記憶低下を主訴とする軽度認知機能障害()を経て発症する。MCIは記憶機能低下が唯一の症状だが、認知症を発症すると実行機能などさまざまな認知機能が著しく低下する。また、日常生活を維持することが難しくなり、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSP)が出現する。認知症患者のほとんどで、BPSP症状のために医療が必要となる。BPSPにはうつ病・不安・無関心が含まれ、これらの症状に関する研究は進んでいるが、脱抑制・衝動性および過食症などについて、病理学な研究はほとんど進んでいない。

AD患者では、全体の15〜40%において、報酬関連行動に顕著な障害が見られる。典型的な例は、衝動性および脱抑制の障害であり、満腹制御の欠如から過食症が生じることもある。認知症のごく早期から衝動性が変化している可能性があり、近年、ADモデルマウスで衝動性が亢進していることが報告されている。

報酬学習にかかわる背側縫線核の活動、ADマウスで異常な高まり

今回、研究グループは、衝動性や強迫的反応の増加を含み、ADモデルマウスの行動異常を分析する実験システムを作成。報酬学習行動テスト中、試験あたりの飲水行動(舐め数)は、普通のマウスに比べADマウスで顕著に高く、衝動性が上昇していることが示されたという。この報酬学習を行っている最中のADマウスの、全脳にわたる脳活動を視覚化するために、新たに高性能fMRI(機能的核磁気共鳴画像)装置を開発。そして、ADマウスの背側縫線核において、異常に高い脳活動(BOLD信号の上昇)を確認した。衝動性を制御するためには、脳幹セロトニン系のコントロールが必要であり、背側縫線核の脱制御は報酬学習の異常につながる。ADの進行により、背側縫線核のセロトニン作動性ニューロンが喪失することなども報告されている。

fMRI法は、脳活動の変化を可視化する効果的な研究方法だ。これまでは、fMRIの際に、体の動きに起因するノイズを抑制することが困難だったため、麻酔下でマウスを使用して、安静時のfMRIデータを取得する実験が多かった。しかし、麻酔はBOLD信号を抑制するため、覚醒している動物で見られるものとは異なる脳活動を報告する可能性がある。したがって、覚醒している動物でのfMRI研究が不可欠だ。同研究では、MRI装置を高磁場化し、fMRI信号の強度を高めることにより、マウスの脳活動に依存して全脳にわたるfMRI画像を取得することに成功した。

今回の研究で開発されたプロトコルを活用することで、マウスモデルを用いた、脳機能の理解につながるfMRI研究が加速することが期待される。また、光遺伝学を伴う操作が加わることで、ADモデルマウスのfMRI研究が一層発展することが期待されるという。同様の操作はヒトでは実行できないため、マウスモデルにおいて有利だ。マウスは遺伝的に操作しやすいため、脳機能における特定の遺伝子の役割を調査するのに適している。特定のモデルマウスを使用し、アミロイド斑の沈着やタウタンパク質の過剰リン酸化などを個別に調べることができる。したがって、げっ歯類のADモデルを用いて覚醒fMRI研究を進めることは、ADの進行を理解するために効果的であると考えられる、と研究グループは述べている。

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