食物繊維の摂取量、摂取源、死亡理由などを関連づけて分析
国立がん研究センターは3月2日、国内約9万人を対象に、食物繊維摂取量とその後の死亡リスクとの関連について調べた結果を発表した。これは、同センター社会と健康研究センター予防研究グループの多目的コホート研究によるもの。研究成果は、「American Journal of Clinical Nutrition」に掲載されている。
画像はリリースより
食物繊維は、血圧・血中脂質・インスリン抵抗性などに良い効果を及ぼすことが報告されており、健康に良いことが知られている一方、摂取量が不足しがちな栄養素だ。これまでに欧米では食物繊維の摂取量と死亡リスクの関連は調べられており、食物繊維摂取量が多いほど死亡リスクが低いという結果が報告されている。 しかし、アジアからの報告がなかったほか、日本人ではどのような食品から食物繊維を摂取することが死亡リスクと関連するのかについては調べられていなかった。そこで、研究では、国内在住者を対象に、食物繊維摂取量とその後の死亡リスクとの関連について検討した。
調査対象は、国内11保健所管轄地域在住の45~74歳の人のうち、食事調査アンケートに回答し、がん、循環器疾患になっていなかった約9万人。2016年まで追跡調査した。保健所は、1995年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、1998年に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田(呼称は2020年現在)である。食事調査アンケートの結果を用いて、食物繊維の摂取量を計算し、等分に5つのグループに分け、その後、平均約17年間の死亡(総死亡・がん死亡・循環器疾患死亡・心疾患死亡・脳血管疾患死亡)との関連を男女別に調べた。さらに食物繊維の摂取源ごと、穀類、豆類、野菜類、果物類由来の食物繊維の摂取量でそれぞれ等分に5つのグループに分け、その後の死亡との関連を調べた。分析にあたって、年齢、地域、肥満度、喫煙、飲酒、身体活動、糖尿病(または服薬)の有無、降圧薬服薬の有無、健診受診の有無、月経状況(女性のみ)、ホルモン剤の使用(女性のみ) 、コーヒー、緑茶、食塩摂取量で統計学的に調整した。
循環器疾患死亡リスクは、男女とも、食物繊維の摂取量が多いほど低い
研究の結果、食物繊維摂取量が多いほど男女ともに総死亡リスクが低下していたことがわかった。死因別では、男女ともに食物繊維摂取量が多いほど「循環器疾患死亡」のリスクが低下していた。「がん死亡」については、男性では総食物繊維摂取量が多いほどがん死亡のリスクが低下していたが、女性についてはその関連を認められなかった。食物繊維の摂取源ごとに調べると、「豆類」「野菜類」「果物類」からの食物繊維は摂取量が多い人ほど総死亡リスクが低下していたが、「穀類」からはその傾向が明らかではなかった。
今回の研究で、日本人においても食物繊維の摂取量が多いほど死亡リスクが低いことが明らかとなった。しかし、欧米の研究で、穀類由来の食物繊維摂取量が多いと死亡リスクが低いとの報告があるにも関わらず、今回の研究ではその関連は顕著でなく、豆類や野菜類、果物類由来の食物繊維摂取量は多いほど死亡リスクが低いという傾向が明らかだった。これは、欧米と比較して日本では穀類の中心が食物繊維含有量の少ない精白米であることが理由として考えられる。
「日本人の場合、食物繊維の摂取量を増やすために豆類や野菜類、果物類由来の食物繊維摂取量を増やすか、より食物繊維含有量の多い穀類(玄米、シリアル、全粒粉パン等)による食物繊維摂取量を増やすのがよい可能性がある。また、この研究は、1回のアンケート調査から計算された摂取量で計算しており、追跡中の食事の変化については考慮していない」と、研究グループは述べている。