母親の深呼吸によって、生後3~8か月児の心拍変動が増強されるかを検証
名古屋大学は2月28日、母親が深呼吸を行うことによって心拍変動が高まると、母親に抱かれた乳児の心拍変動も高められ、その影響は高月齢児(6~8か月児)の方が低月齢児(3~5か月児)より強いことを明らかにしたと発表した。これは同大大学院情報学研究科の大平英樹教授とユニ・チャーム株式会社共生社会研究所の共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
大人は、深呼吸(1分間に約6回)を行うことで迷走神経(心拍数の調整機能を担う副交感神経に1つ)の活動が高まり、リラックスできることが知られている。一方、乳児は自ら呼吸をコントロールし、迷走神経活動を高めることはできない。これまでの研究で、胎児期、新生児期、幼児期の心拍変動が、発達段階において言語能力や心理的発達のようなさまざまな側面を予測し、乳児の迷走神経活動は成長と社会感情の発達に関連していることが知られている。
母親から乳児への心拍変動の影響については、生後2か月までは、母親と身体接触している間、母親の深呼吸によって母子の心拍変動が高まり、3か月児でその影響はなくなると報告されてきた。しかし、運動発達や自律神経機能が急速に発達する3か月以降の生理的相互作用の発達的変化は明らかではなかった。母親から乳児への心拍変動の影響は、心臓活動の物理的同期によって媒介される可能性がありため、その影響が月齢に依存するかについて低月齢児(3~5か月児)と高月齢児(6~8か月)で検討した。
母親の深呼吸による心拍変動の増加は、低月齢児より高月齢児に影響
40組の母子(3~8か月児)を対象に、心拍センサーを母子の胸部に装着。母親は座位、乳児は寝姿勢で5分間安静に過ごし、その後、母親は乳児を抱っこした状態で深呼吸(吸気4秒、呼気6秒)を15分間行った。さらに、母子は再度5分間安静に過ごした。また、別の日にコントロール条件として、母親が自然呼吸で乳児を抱っこした計測も行われた。
結果、深呼吸により、母親の心拍変動(LF成分)が増加。高月齢児では、母親の心拍変動の増加に応じて増加し、その傾向は、低月齢児よりも高月齢児で大きいことが示された。また、高月齢児では、LF成分の増加に伴い、乳児の迷走神経活動の指標となる高周波変動成分(HF成分)の増加もみられた。これらのことからは、深呼吸による母親のLF成分の増加が、身体接触を介した物理現象を通じて乳児のLF成分に影響し、乳児のLF成分の増加が高月齢児の内部メカニズムによって遠心性迷走神経活動を反映するHF成分の増加を引き起こしたと示唆される。
乳児と養育者の身体接触は、生理的な意味でも重要
脳は、単に感覚入力に受動的に反応するのではなく、入力される刺激を予測する内的モデルを構成している。知覚と行動は、予測と入力された感覚信号を比較し、それらの予測誤差を計算し、予測誤差を最小化するように調整することにより構成される。母親の心臓活動からの信号は、触覚および聴覚感覚モダリティを介して乳児の脳に到達し、内的モデルが成熟している高月齢では予測誤差を最小限に抑えるために、速やかに迷走神経による心臓活動の調整が行われ、低月齢児では、内的モデルが未熟のため予測誤差に基づいた心臓活動の調整に遅れが生じたと考えられる。
乳児と養育者の身体接触は、語りかけや触れ合いなどの社会的な相互作用だけでなく、身体を介した生理的な同期による自己の生理的活動の制御システムの発達という観点からも重要であることが示された。「今後は、乳児の迷走神経活動を強化する効率的な方法の開発に役立てるため、身体接触による養育者の心臓活動が乳児の心臓活動に及ぼす影響の根底にあるメカニズムを解明すること、また、乳児の心拍変動性の向上が乳児の心身の発達や養育者の心身に及ぼす影響を明らかにする長期的かつ縦断的な研究が必要だ」と、研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース