従来のドライバー遺伝子陰性の肺腺がん125症例を網羅的にゲノム解析
国立がん研究センターは2月26日、軽喫煙者・非喫煙者の肺腺がんの悪性化に関わるメカニズムを解明し、発がんの原因となる遺伝子変異を新たに明らかにするとともに、術後再発のリスクの予測に重要な3種類の遺伝子を同定することに成功したと発表した。これは、同研究所細胞情報学の高阪真路主任研究員、間野博行分野長、順天堂大学人体病理病態学講座の林大久生准教授、同大呼吸器外科学講座の高持一矢准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Thoracic Oncology」に掲載されている。
日本における成人の死因の第1位はがんであり、その中で肺がんはがん死亡原因のトップである。肺がん中で最も多いのは肺腺がんで、非喫煙者の女性もかかるとされる。肺腺がんは、これまで原因不明のがんと考えられていたが、遺伝子解析技術の進歩により、「KRAS」「EGFR」「ALK」「RET」「ROS1」「BRAF」などの遺伝子変異と関連があるがんとして注目され、分子標的治療薬による治療も著しく進歩してきている。
研究では、非喫煙者・軽喫煙者の肺腺がん996例を調べ、従来の検査では明らかながん遺伝子 (KRAS, EGFR, ALK, RET, ROS1の遺伝子変異)が見つからない125症例(男性30症例、女性95症例)を対象に、次世代シークエンサーによる全エクソーム解析・全トランスクリプトーム解析を行った。
治療標的となり得る「NRG2」融合遺伝子を同定、予後予測マーカーとして3遺伝子も同定
解析した結果、従来の検査では同定できなかった標的となり得るがんの遺伝子変異を、解析対象の約70%で同定することができた。特に全く新たながん遺伝子として、「NRG2」融合遺伝子を発見した。また、全トランスクリプトーム解析により、術後再発のリスクを予測するマーカーを同定。炎症反応に関連する遺伝子など3種類(CCL8, MIS18A, C1orf131)の遺伝子の発現量から算出したリスクスコアによって術後再発のリスクを層別化することが可能となった。
今回初めて発見されたNRG2と近縁の「NRG1」遺伝子については、その融合遺伝子が肺腺がんや膵がんなどで報告されており、がん細胞に異常な増殖シグナルを送り続けることにより、発がんに寄与することが知られている。また、NRG1融合遺伝子の異常な増殖シグナルを抑える抗がん剤の開発が進んでおり、現在、国際臨床試験の開始が予定されている。
同研究成果は、肺腺がんにおけるゲノム解析の有用性を示唆する結果と言える。「2019年6月からがん遺伝子パネル検査が保険診療開始されているが、今後はより多くの患者に分子標的が同定され、最適な治療法の確立が促進されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース