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ASDの協調運動の困難さ、神経伝達物質GABA濃度と関連-障害者リハ研ほか

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2020年02月26日 PM12:00

GABA濃度を個人ごとに定量化し、どの運動特性と結びつくかを検証

国立障害者リハビリテーションセンター研究所は2月21日、(Autism spectrum disorder:)の多くにみられる協調運動の困難さが、脳の運動領域(一次運動野、補足運動野)に含まれている神経伝達物質γ-aminobutyric acid(GABA)の濃度と関わることを発見したと発表した。この研究は、同研究所の脳機能系障害研究部・発達障害研究室と、杏林大学らの研究グループによるもの。研究成果は、国際専門雑誌「Journal of Autism and Developmental Disorders」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ASDは、神経発達症の一つであり、社会コミュニケーションの困難やこだわり、常同行動などを行動特性として示す。一方で、ASDの約8割は発達性協調運動障害を呈することが報告されている。例えば、靴紐を結ぶといった指先の微細な動作や、球技や水泳など全身を使う粗大な運動など、日常生活で行う多岐に渡る運動で困難が生じる。これらの困難は、特に学校教育のような集団生活では問題になりやすく、うつや不安障害などの二次障害の原因となると懸念されている。しかし、どのような神経メカニズムがASDの運動障害の背景にあるのかについては、あまりわかっていない。

これまで、ASDでみられる脳の特徴が研究されてきたが、その一つが脳の興奮と抑制状態のアンバランス(Excitation/Inhibition imbalance:E/I imbalance)だ。E/I imbalance は、抑制性の神経伝達物質GABAの代謝が変容することによって生じると考えられている。定型発達(Typically developing:TD)者での研究では、脳の運動領域に含まれるGABAの量と、実験室で測定した運動のパフォーマンスが関連することが示されている。

今回、研究グループは、ASD患者の脳の運動領域に含まれるGABA濃度の変容が、ASD患者に特徴的な協調運動の障害と結びつくという仮説を立てた。運動スキルは、発達障害の臨床場面で用いられるアセスメントツール(Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency, Second Edition: BOT(TM)-2)で評価し、いくつかの下位項目に分類される運動特性ごとに算出。1H-MRSを用いて特定の脳部位のGABA濃度を個人ごとに定量化し、それらがどの運動特性と結びつくかを検証した。

ASD患者21名とTD者20名に、脳内GABA濃度計測と運動スキルの評価を実施

今回、ASD患者21名とTD者20名を対象に、1H-MRSによって脳内GABA濃度を計測し、アセスメントツール(BOT-2)を使って運動スキルを評価した。まず、1H-MRSによる脳内GABA濃度は、磁場の強さが3テスラのMRI(磁気共鳴画像法)を利用して計測した。計測する脳領域は、運動制御に関わる脳領域の中で、特に高次の運動野からの情報を取りまとめ、筋肉に直接運動指令を送る一次運動野(Primary motor area:M1)と、協調運動の制御に関わる補足運動野(Supplementary motor area:SMA)の2か所を中心とした領域に設定した。

また、発達障害にみられる運動障害の臨床スクリーニングや、支援計画のためのアセスメントとして国際的に広く用いられているBOT-2を利用。BOT-2では、53種類の短時間の運動課題を行うことで、全般的な運動スキル(総合スコア)と、4つの下位尺度に分けた運動スキルを評価できる。4つの下位尺度は、指先の器用な動作を評価する「正確な運動制御」、左右の手や片側の腕から指先までの動きを適切に組み合わせる能力を評価する「手元の協調」、上肢と下肢の動きを適切に組み合わせる「全身の協調」、これらの動作の下地となる全身の筋力の大きさや持久力を評価する「筋力と機敏性」で構成されている。

M1のGABA濃度が高い人ほど、総合スコアと筋力と機敏性スコアが低下

M1とSMAのGABA濃度の全体的傾向としては、ASD患者とTD者のグループの間に統計的に有意な差はみられなかった。運動スキル(BOT-2)の全体的傾向については、ASD患者では、BOT-2で評価した運動スキルの総合スコアがTD者よりも低く、総合的な運動スキルが低いことが判明。また、下位尺度については、「正確な運動制御」以外の項目すべてで、ASD患者のスコアが低くなった。続いて、脳内GABA濃度(1H-MRS)と運動スキル(BOT-2)の関係については、M1のGABA濃度が高い参加者ほど、総合スコアと「筋力と機敏性」のスコアが低下する傾向がみられた。この結果は、ASD患者とTD者全体でみられたことに加え、ASD患者だけのデータでも同じ関係性が維持された(TD者だけの解析では関係がみられなかった)。一方、SMAに関しては、その領域のGABA濃度が低いASD患者ほど、「全身の協調」のスコアが低下する傾向がみられた。この傾向は、TD者ではみられず、ASD患者だけで確認されたという。

今回の研究成果より、ASD患者における運動困難へのリハビリ効果を、脳内の2つの領域(M1・SMA)のGABA濃度により評価する、生理的な指標として利用することが期待できるという。また、新たなリハビリテーションの構築や創薬に役立つ可能性がある、と研究グループは述べている。

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