新規治療法の確立が急務とされる「肝がん」
新潟大学は2月21日、肝がんに対する新しい遺伝子治療法を開発し、その有効性と安全性をマウスを用いて確認したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の上村顕也講師、寺井崇二教授らの研究グループと、東京医科歯科大学難治疾患研究所発生再生生物学分野(仁科博史教授ら)、東海大学医学部医学科基礎医学系分子生命科学教室(大塚正人教授ら)が共同で行ったもの。研究成果は、「Cancers」に掲載されている。
画像はリリースより
肝がんは、ウイルス性肝疾患、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患に合併することのある悪性新生物。その腫瘍はさまざまな形質をもつ腫瘍細胞から成り立つことが多く、再発や治療抵抗性の獲得などの点から新規治療法の確立が急務で、いろいろな取り組みが行われている。
研究グループはこれまでに、遺伝子治療法の研究、肝硬変に対する遺伝子治療法の報告をしてきた。そこで今回、同研究グループは、肝がんに対する新規遺伝子治療法の確立のための研究を行った。
肝がん細胞に選択的にジフテリア毒素A鎖の遺伝子を発現することでアポトーシスに誘導
肝がん細胞に対して、ジフテリア毒素A遺伝子を導入し、細胞死を誘導できるか、肝がんの培養細胞を用いて検証。また、肝がん細胞に選択的にその毒素遺伝子を発現させるために、肝がん細胞で増えているAFPのプロモーターによってジフテリア毒素A遺伝子の発現が制御されるプラスミド(pAFP-DTA)を作製した。さらに、マウスの肝発がんモデルを対象として、pAFP-DTAの肝がんに対する遺伝子治療効果を検証した。その結果、培養細胞にアポトーシスを誘導することで、肝がん細胞数の増加を効率的に抑制することが判明。また、肝がん細胞に選択的にジフテリア毒素A遺伝子の発現するプラスミド(pAFP-DTA)を導入した結果、このプラスミドが、AFPを産生する肝がん細胞を選択的にアポトーシスに誘導することが明らかとなった。
そこで、マウスの肝発がんモデルを対象として、pAFP-DTAをハイドロダイナミック遺伝子導入法で導入し、肝がんに対する遺伝子治療効果を検証した。その結果、遺伝子治療を行ったマウスでは、肝がんの発症が抑制された。また、経時的な血液検査の結果、肝がんの血液マーカーであるAFP、PIVKAIIが低下するとともに、治療に伴う毒性や肝障害は認められなかった。これは、ジフテリア毒素Aを肝がん細胞選択的に発現することができた結果と推察される。
今回の研究成果により、肝がん細胞に選択的にジフテリア毒素A鎖の遺伝子を発現することで、安全で効率的な遺伝子治療が可能であることが明らかとなった。研究グループは、「発表した肝硬変に対する遺伝子治療法とあわせて、今後も肝疾患の遺伝子治療研究を行っていく。また、本研究グループはハイドロダイナミック遺伝子導入法を研究し、大動物でも応用可能であることを明らかにしている。全身の難治疾患に対して、遺伝子治療を研究していく」と、述べている。
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・新潟大学 研究成果