乳がん全摘の51症例の乳頭組織、X線暗視野法で撮像
名古屋大学は2月20日、乳がんが基本的に1つの乳腺葉を侵す疾患であること(sick lobe 理論)を、乳がんにより全摘された51症例の乳頭をX線暗視野CTにより可視化することで明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の砂口尚輝准教授、北海道科学大学保健医療学部の島雄大介教授、名古屋医療センター臨床研究センターの市原周元研究室長らのグループによるもの。研究成果は、オランダ誌「Breast Cancer Research and Treatment」に掲載されている。
画像はリリースより
X線暗視野法は、総合科学研究機構の安藤正海研究員(高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授)により考案された方法。これまでのX線CTでは観察できなかった生体内の柔らかい組織(乳腺や臓器等)を、顕微鏡による組織切片の観察に匹敵する高いコントラストで可視化することができる。研究グループは、高い輝度で高い平行性を持った特別なX線を利用できる加速器施設KEK物質構造科学研究所フォトンファクトリー(KEK-PF)のBL-14BおよびBL-14C実験室で、この方法の画質向上や高速化に取り組み、様々な生体試料の3次元微細解剖構造を効率よく解析できる技術的基盤を整備した。一般的に、生体の微細解剖学に関する研究は、病理診断の伝統的技術であるミクロトームによる組織の薄切と染色によって作製される組織切片を光学顕微鏡で観察することで行われる。しかし、この方法は、膨大な数の切片を必要とする3次元観察のため、労力がかかりすぎるという問題があった。X線暗視野CTは3次元解析を必要とする微細解剖学研究の技術的課題を克服した新しい方法として期待される。
近年、乳がんの予防や治療後の外観を維持するために、乳房の乳頭・乳輪・皮膚を残し乳腺を切除する乳頭温存乳腺全摘術が行われるようになったが、乳頭内乳管の3次元配置や乳頭内乳管がんの発生メカニズムについては完全に分かっておらず、リスクが存在する。今回の研究では、乳がんにより全摘された51症例の乳頭組織をKEK-PF BL-14Bに設置したX線暗視野法を用いて撮像し、乳頭温存乳腺全摘術のリスク低減につながる乳頭内乳管の3次元情報を得ることを目的とした。
基本的に1つの乳腺葉で発生する可能性、Tibor Totのsick lobe理論を支持する結果
51症例の解析の結果、乳頭内乳管数、乳頭先端における乳管の合流点(開口)数、乳頭内乳管の3次元配置が3つのタイプに分類できることがわかった。また、51症例のうち9症例(18%)は乳頭内にがんがあり、そのうち6症例は非浸潤性乳管がんであることがわかったという。この6症例について、Tibor Totが提唱した乳がんのsick lobe理論どおりに1つの乳腺葉で発生したがんであるか否かをCTの3次元観察により調査。その結果、6症例中5例は1本の乳管のみにがんが存在し、sick lobe理論と矛盾しない結果を得た。1例には乳頭内の3本の乳管にがんが存在したが、それら3本の乳管は先端で合流するため、1つの乳腺葉に属する可能性が高いと考えられるという。
研究グループは、撮影された画像から乳頭のさらなる解析を進めており、乳頭内乳管には頻度は低いが枝分かれが存在することが明らかになっているという。これが、異なる乳腺葉の乳管の吻合であるか否かは興味深いと考えられる。また、このX線暗視野CTを様々な生体試料の3次元微細解剖学研究に広げるために、知の拠点あいち・重点プロジェクト第3期にて、あいちシンクロトロン光センター・BL8S2ビームラインに新しいX線暗視野CT装置を構築中だとしている。
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