約8万3,000人の母親の「産後1年時点のボンディングの程度」を評価
富山大学は2月18日、帝王切開と通常の分娩で出産した母親の対児愛着(ボンディング)の傾向を調べたところ、帝王切開と関連してボンディングが悪くならないことを「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」から明らかにしたと発表した。これは、同大附属病院周産母子センター・センター長 吉田丈俊特命教授らの研究グループによるもの。研究成果は、精神医学系専門誌「Journal of Affective Disorder」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
ボンディングは、母親から子どもに向けられる情緒的な関心や愛情のことで、母親が子どもの世話をしたり、守ったりする動機付けにもなる。一方で、自分の子どもに対して愛情が湧かず、世話をし、守りたいという感情が弱く、イライラしたり敵意を感じたり攻撃したくなるような「ボンディング障害」の症状に苦しむ人もいる。ボンディング障害は、虐待を含むマルトリートメント(不適切な養育)につながる危険性も示唆されており、子どもの成長や発達に悪影響を与える場合もある。
研究グループは以前、産後うつに関連してボンディングが悪くなることを明らかにしている。しかし、産後うつのほかにも、妊娠への否定的感情、配偶者との関係、子の夜泣き、文化的に男児が重んじられる地域では女児であること、帝王切開による出産などがボンディング障害のリスクであると報告されてきた。
今回の研究では帝王切開に着目し、エコチル調査に参加している約8万3,000人の母親の「産後1年時点のボンディングの程度」を評価し、帝王切開のリスクを検討した。
「愛情の欠如」について経膣分娩と帝王切開で比較した結果、両者に差はみられず
ボンディングは、赤ちゃんへの気持ち質問票を用いて評価。この質問票は、10の質問に回答することで、0~30点の得点を算出し、点数が高いほど赤ちゃんに対して否定的な気持ちであるとされる。また10の質問のうち4つの質問から「愛情の欠如」、また別の4つの質問から「怒りと拒絶」を示す気持ちの傾向(因子)についても検討を行った。
帝王切開は、初産で帝王切開になると次の出産時にも帝王切開での出産が選択される場合が非常に多く、これを反復帝王切開と呼ぶ。また、初産婦と経産婦ではボンディングの傾向がそもそも異なっているため、初産婦と経産婦に分けて、帝王切開になったか否かの比較を行った。そのうち経産婦については、反復帝王切開で帝王切開になった人と、2回目以降の出産で初めて帝王切開になった人に分け、帝王切開がボンディングに与えるリスクを検討した。
まず、ボンディングの総得点を初産婦と経産婦で比較したところ、初産婦のほうが高く、ボンディングがやや悪くなる傾向が明らかになった。次に、「愛情の欠如」について、経膣分娩と帝王切開で比較したところ、初産婦および経産婦のいずれも、経膣分娩と帝王切開で差はみられなかった。また、「怒りと拒絶」については、経産時点で初めて帝王切開になった人は、経産時に帝王切開にならなかった人よりもやや高い値を示した。しかし、統計学的有意差は出たものの、その差は非常に小さなもので、帝王切開の方がリスクがあると示せるほど大きなものではなかったという。
緊急帝王切開についての詳細な検討にも期待
これらの結果から、分娩経験別に細かく検討しても、帝王切開によってボンディングが著しく悪くなるという傾向はみられなかった。帝王切開は全分娩の約2割近くを占めている。今回の研究で、帝王切開の出産でもボンディングに悪影響がないということを示せたことは、これから出産を迎える妊婦にとって、安心材料となる情報だと言える。
しかし同研究では、反復帝王切開や多胎出産などで母親に事前に帝王切開を知らせる「予定帝王切開」と、母体や胎児に問題があって行う「緊急帝王切開」を区別した検討は行われていない。これまで問題が指摘されていたのは「緊急帝王切開」に限定したものであることから、今後は緊急帝王切開について詳細な検討が必要と考えられる。
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