医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 通信技術とIoTを応⽤した新⽣児蘇⽣法訓練⽤シミュレーターを開発-京大ほか

通信技術とIoTを応⽤した新⽣児蘇⽣法訓練⽤シミュレーターを開発-京大ほか

読了時間:約 3分13秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年02月21日 AM11:00

⼈⼯呼吸などの蘇⽣⼿技演習などを行うNCPR講習

⽴命館⼤学は2月12日、通信技術とIoTを応⽤した、低コストで訓練効果が高く、遠隔地からの講習を可能とした新⽣児蘇⽣法訓練⽤シミュレーターを開発したと発表した。この研究は、京都⼤学医学部附属病院の岩永甲午郎助教および同⼤学情報理⼯学部の野間春⽣教授らの研究グループによるものだ。

出産直後に呼吸・循環が不安定で仮死状態となる新⽣児が、全体の15%程度存在することから、新⽣児蘇⽣術を習得した医療従事者が出産の場に立ち会うことが求められている。そのため、医療者は新⽣児蘇⽣技術の向上と維持のため、短時間でも効果的な反復トレーニングを実施することが提⾔されている。しかし、現実には産科診療所のような施設でも簡便に反復利⽤可能な教育資源・設備は⼗分に広く整備されておらず、教育機会および教育資源の不⾜が課題だった。

(NCPR:Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation)講習は、講義と⼈⼯呼吸などの蘇⽣⼿技演習と、特定の出産状況を設定したシナリオ演習の3部構成となっている。同講習における学習⽬標は、蘇⽣アルゴリズムに従って、チームで蘇⽣を成功させることだ。そのため、講習の指導者に求められるのは(シミュレーターを⽤いた)蘇⽣シナリオ演習で学習者⾃らの気づきを導き出し(=認知機能を刺激)、効果的な振り返りによりチームでの蘇⽣を⽀援(=認知と⾏動の統合)すること。シナリオ実習で使⽤されるシミュレーターは新⽣児の⾝体の構造だけでなく、体動やバイタルを表現可能な⾼性能なシミュレーターから、新⽣児の⾝体の構造だけを再現した簡素な新⽣児マネキンまで、各種実⽤化され市販されている。

⾼性能な新⽣児シミュレーターは、⼼拍⾳やチアノーゼなどバイタル(⽣体)の情報を提⽰でき、効果的な訓練には望ましいが、シミュレーター本体が⾼価格であるため⼗分に普及していない。実際のNCPR講習現場で広く⽤いられているシミュレーターは、新⽣児の形状のみを再現した簡易で安価な新⽣児マネキンが主流だ。このような簡易新⽣児マネキンでは、バイタルを再現することができないため、指導者が机を叩いて⼼拍数を伝えるなど、実際の臨床現場とはかけ離れた⽅法で蘇⽣アルゴリズム判断に必要な情報を学習者に伝えている。そのため、より現実に近い緊迫感を伴った訓練を実現するには指導者・学習者双⽅の⼗分なモティベーションと指導者の講習運⽤スキルが求められている。


画像はリリースより

低コストで訓練効果が高く、遠隔地からの講習も可能

今回の研究開発は、このようなNCPR講習が直⾯している問題の解決のため、平成30年度から総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)の研究⽀援を受け始まった。既存の簡易新⽣児マネキンを利⽤し、情報通信技術とIoTによって医療機器を模することで導⼊コストを抑えながら、学習者の主体的な気付きを効率よく導き出し、どこからでもいつでも受講できるNCPR訓練⽤シミュレーターを実現。NCPR講習を広く普及させ、本システムを施設毎や地域毎の反復訓練を支援するための教育基盤とすることを⽬指した。

開発した試作機は、学習者が新⽣児マネキンの⼼拍を確認する際に使⽤する、センサと通信機を内蔵するIoT型聴診器、新⽣児の模擬バイタル(⽣体情報)を学習者に提⽰するための模擬医療機器と、指導者が新⽣児のバイタルを制御するコントローラーからなり、特製の聴診器以外は、いずれもスマートフォン上のアプリケーションとして実現している。提⽰するバイタルは、NCPR講習のガイドラインに示されている医療者の蘇⽣⾏動の選択基準(=蘇⽣のアルゴリズム)となる⼼拍数、酸素飽和度、啼泣、⼼電図波形などに対応している。患者の体に当てるIoT型聴診器のチェストピース部には光量を計測する光センサを組み込んでいる。

チェストピースを新⽣児マネキンにあてると光量の変化を計測し、Bluetooth回線でコントローラーに通知する。コントローラーは、その結果に応じて講師の設定する⼼拍数で、⼼⾳をチェストピースに内蔵されているスピーカーから再⽣する。これにより、聴診者(=学習者)が新⽣児マネキンに聴診器をあてたときだけ、指導者の設定する⼼拍数での⼼⾳を実際の聴診と同様に聴診可能。この⽅式によって、従来の講習のように講師(指導者)が⼝頭や机を叩く⾳で⼼拍⾳を与えるよりも現実に即していて、結果的に学習効果と学習意欲に⼤きく貢献していることがわかったという。

また、疑似的なパルスオキシメーターモニターをスマートフォン⽤アプリケーションとして開発し、IoT聴診器と連動させるため、指導者がシミュレーションシナリオ進⾏の状況に合わせて⼿軽に操作し負担が軽減される仕様となった。これらの機器はインターネット接続により、中核病院や専⾨施設にいる指導者が、地域の診療所や諸外国の学習者にむけてテレビ電話回線などの通信基盤を利⽤して遠隔講習を実施することも可能だという。

同システムは、主たる販売先として、出産に関わる診療所や病院の2,300院、教育機関である看護学校、助産学校、⼤学医学部・看護学部等の1,200校を対象にしており、2020年春を⽬処に、もっともシンプルな構成でのNCPRシミュレーターを販売開始する予定だ。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大