事前研究で「PLOD2産生阻害でがん細胞の運動性が減弱」と判明
新潟大学は2月14日、がん転移の分子として重要視される「インテグリン」の働きにおいて、水酸化酵素の1つである「PLOD2」の存在が必要であることが明らかになったと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科分子細胞病理学分野の齋藤憲准教授、近藤英作教授らの研究グループと、同耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野の植木雄志特任助教、堀井新教授ら、および岡山大学大学院医歯薬学総合研究科細胞生物学講座の阪口政清教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「iScience」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
がん細胞が新たな病巣を作るため、発生場所から離れた体内の他の組織に移動する際に、がん細胞は強力な運動能を獲得しており、インテグリンがその運動能を発揮する際の細胞接着分子であることは、がん研究領域では広く知られている。しかし、いかにしてインテグリンががん細胞内で活性化されるのか、そのメカニズムは未解明の部分が多い。
ヒトの体には水酸化酵素群といわれる分子グループが存在し、核酸やタンパク質などさまざまな物質を水酸化して正常な体内環境を調整している。数十種類の水酸化酵素の1つである「PLOD2」は、がん細胞で高い活性化状態にあることを準備研究の段階で見出していた。PLOD2の産生を阻害するとがん細胞の運動性が著しく減弱するという実験データから、研究グループは、浸潤転移を起こす際の細胞移動に関わる代表的な細胞接着分子であるインテグリン(Integrin β1)に注目しPLOD2との関わりの有無を調べた。
PLOD2はインテグリンに直接作用、水酸化酵素特異的阻害剤の開発へ
マウスを用いた実験で、PLOD2はインテグリンに直接反応して、インテグリンタンパク質の水酸化を起こし、分子の安定化と機能の活性化に働いていることが確認された。また、PLOD2のないがん細胞では、インテグリンタンパク質の分解が起こり、がんの体内転移巣が劇的に減少することが明らかとなった。
次段階としてPLOD2酵素特異的阻害剤を開発することにより、従来のがん細胞にすでに発現しているインテグリンに対する中和抗体で機能阻害する治療法とは異なり、インテグリンの発現・機能化そのものの段階でがん転移を抑制する画期的な新治療法の創出につながる可能性が期待できる。
患者の身体を考えた副作用の少ないがんの分子標的治療の開発が世界的に推進されており、多数の分子標的薬が開発されているが、現状これらのほとんどがリン酸化酵素阻害剤である。研究グループは、「今回の発見をもとにさらに水酸化酵素特異的阻害剤の開発を進め、将来的に転移を克服可能な新たな視点に立った革新的な治療法を作り出す道筋をつけていくことに努力していきたい」と、述べている。
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・新潟大学 研究成果