家庭への有害物質の持ち帰りに注意
有害な化学物質や鉛などの金属を扱う仕事をする人は、気づかないうちに家庭に有害物質を持ち帰っている可能性がある――。そんな研究結果を、米ボストン大学のDiana Ceballos氏らが「Annals of Work Exposures and Health」1月29日オンライン版に発表した。職場から持ち帰った有害物質は、家族、特に子どもの健康に深刻な悪影響を与えるという。
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Ceballos氏は、「米国労働安全衛生局(OSHA)の規制に従って、企業として職場での有害物質の取り扱いに安全策を講じていても、家庭への持ち帰りは規制上、盲点となっている可能性がある」と指摘。「現行の規制は、従業員の家族を含む全ての人の健康を守るのには十分ではないかもしれない」と述べている。
Ceballos氏は、産業衛生士として米疾病対策センター(CDC)に所属していた時に、家電製品のリサイクル施設で働く父親が持ち帰った鉛が原因で、中毒になった2人の子どもの事例を経験した。この父親は、古い家電製品のブラウン管に使われていた鉛ガラスを粉砕する作業を行っていた。職場の鉛の曝露量は、成人男性の健康に悪影響を与えるほどではなかったが、父親の身体や作業衣に付着して家庭内に持ち込まれた鉛の粉塵量は、子どもたちにとっては危険なレベルだった。
父親がその職場で働き始めて約1年が経過した頃、子どもたちの鉛の血中濃度が異常に高いことが発覚した。その後、子どもたちに行動や発達、学習面での問題といった鉛中毒の症状が現れ始めたという。
Ceballos氏らは、有害物質の家庭内曝露の有名な事例として、1970年代のアスベスト被害を挙げる。労働者が作業衣などを通して自宅に持ち帰ったアスベスト粉塵を家族が吸入した結果、家族が悪性中皮腫などのがんを発症する被害が起こり、社会問題となった。
このような家庭内曝露のリスクが高い職種は数多くあり、家電製品のリサイクル業や農業、建築業などが挙げられる。他にも、これまでの研究では、パン屋の子どもたちは喘息やアレルギー性疾患のリスクが高いことが報告されている。これは家庭に持ち込まれた小麦粉に子どもたちが曝露し、小麦に感作されたためである可能性が高いと考えられている。
現状では、有害物質の家庭内曝露の危険性は、労働者の間でもほとんど知られていない。先ほどの事例の父親も、自分の仕事にこのようなリスクがあるとは夢にも思っていなかったという。しかし、「有害物質の家庭内曝露は防げるはずだ」とCeballos氏は強調する。家庭内曝露を防ぐために、企業は、職場の有害物質の使用を制限し、職場と家庭内の曝露を減らす方法について従業員に対して研修を行うべきだとしている。さらに、「有害物質の家庭への持ち帰りを防ぐための規制を整備する必要がある」と同氏は付け加えている。
また、家庭への有害物質の持ち込みを減らすため、Ceballos氏は、職場を出る前に手や顔を洗ったり、シャワーを浴びたりして有害物質を洗い流すことや、用意しておいた衣服に着替え、靴を履き替えることなどを勧めている。また、車通勤の人は、汚染されたほこりがたまりやすい車内も清潔にするよう助言している。
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