モノとモノがインターネットでつながるIoT機器やアプリなどデジタルヘルス市場に参入する製薬企業の知財戦略に大きな変化が生まれている――。物質特許で保護されている医薬品とは異なり、デジタルヘルスでは異業種企業が持つ技術を結集し、特許や意匠、商標、著作権などの多様な知的財産権を保護していく緻密な戦略が求められる。日本製薬工業協会が14日に都内で開催した「ライフサイエンス知財フォーラム」のパネル討論では、シンポジストから製薬企業の自前主義による知財保護ではデジタルヘルスで勝ち残れないとの意見が相次いだ。
製薬協知的財産委員会の石田洋平委員長は、製薬企業の事業モデルについて、「治療を中心に予防から予後まで総合的なヘルスケアソリューションを提案するようになっている」と述べ、事業環境の急速な変化に言及した。物質特許などで製品を一定期間保護する技術主導型の事業モデルから、「自社の知的財産をもとに他社とつながり、エコシステムを構築していく需要主導型の事業モデルに変化していく。知財はオープンイノベーションで仲間を集めるツールになっている」との認識を示した。
ただ、データやデータベースに関連する知財は、特許法や著作権法、不正競争防止法など根拠となる法律によって保護の要件や権利の内容が変わってくるため、「コア技術の競争力を高めるためには、活用できる知的財産権を組み合わせて権利を保護していくことが必要」と述べ、製薬企業が競争を勝ち抜く上で、新たな概念として“知財権ミックス戦略”を提唱した。
デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーの國光健一氏は、「ヘルスケアでのIoT、人工知能領域のトッププレイヤーはいずれも製薬企業ではなく、IT企業が知財を独占しており、特許出願も増加傾向にある。一部の欧米企業が先行し、日本企業は遅れを取っている」との実態を紹介した。
その上で、「IoT時代の到来によりグローバルで競争が激化し、異業種が相次いで参入してくる。製薬企業には伝統的な差別化のための知財戦略だけではなく、他社に知財を使わせるエコシステムを意識した戦略が必要」と訴えた。