CKDの塩分感受性亢進におけるWNKシグナルの関与を解析
東京医科歯科大学は2月12日、CKDにおける塩分感受性亢進の原因にWNKシグナルの亢進が関わっていることを発見し、TNFαの阻害がWNKシグナルの抑制を介して塩分感受性の是正につながることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の蘇原映誠准教授と古荘泰佑大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Kidney Internationa」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
高血圧は慢性腎臓病(CKD)に高頻度に合併し、腎機能をさらに悪化させるとともに脳卒中、心疾患発症につながることから、適切なコントロールが重要だ。摂取した塩分が適切に排泄されないと体液量の増加から血圧が上昇することが知られているが、CKDでは塩分貯留傾向となり、血圧コントロールが難しくなる。近年、CKDの塩分感受性亢進に尿細管での塩分再吸収の増加が関わることが報告されているが、腎臓遠位尿細管においてナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)を活性化し、塩分再吸収を増加させるWNKシグナルの関与については不明だった。また、近年注目されている免疫機構による血圧制御メカニズムにWNKシグナルが関わるかどうかもまた不明だった。
TNFα<WNK1分解抑制<WNK-SPAK-NCCシグナル活性化
今回、研究グループは、CKDマウスモデルを用いてWNKシグナルと塩分感受性を評価した。その結果、CKDマウスモデルの一部でWNK1-SPAKシグナルが亢進し塩分感受性高血圧発症に関わっていることを発見した。WNK1-SPAKシグナルの亢進しているCKDモデル(アリストロキア酸腎症、アデニン腎症)と亢進のないモデル(6分の5腎摘モデル)の違いに注目し解析を行なった結果、炎症性サイトカインの1つであるTNFαがWNK1-SPAKシグナルの亢進に関わっていることが示唆された。実際に、腎臓の培養細胞にTNFαを負荷したところ、WNKシグナルが亢進した。さらに、WNK1-SPAKシグナルが亢進しているCKDマウスモデルにTNF阻害薬を投与した実験結果から、CKD腎臓で産生が増加したTNFαはWNK1タンパク質の分解を担うNEDD4-2の発現を抑制し、増加したWNK1タンパク質が塩分再吸収を増加させて塩分感受性高血圧を惹起していることが明らかになった。
今回の研究は、WNK シグナルが免疫機構による血圧制御メカニズムの一端を担っており、CKDの塩分感受性亢進に関わっていることを世界に先駆けて明らかにしたもの。研究グループは、「CKDではNCCの阻害薬であるサイアザイド系利尿薬の効果に個人差があることが知られているが、サイアザイドの有効なCKDではTNFα-WNK1-SPAK-NCCシグナルが活性化している可能性がある。そのため、腎臓でのTNFα産生の評価は腎機能の低下した患者個々に対する適切な降圧療法選択に有用と考えられる」と、述べている。
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