リスクが多い「重度症候性僧帽弁逆流症」の手術
大阪大学は2月12日、僧帽弁置換術をカテーテル的に行う治療(経カテーテル僧帽弁置換術)の臨床試験を開始し、重度の心機能低下を伴う重度僧帽弁閉鎖不全症(重度症候性僧帽弁逆流症)に対する治療として、人工心肺を用いずに、心臓拍動下に僧帽弁置換術を実施したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の澤 芳樹教授(心臓血管外科)らの研究グループによるもの。
重度症候性僧帽弁逆流症は、放置すると心臓拡大、不整脈、心不全、肺うっ血などをきたすため、心臓手術(僧帽弁置換術、僧帽弁形成術)が必要とされている。
従来の心臓弁に対する手術では、人工心肺装置を用いたうえで、上行大動脈をクランプして心筋保護液を注入することで心臓を停止させてから、心臓や大動脈を切開して手術を行っている。医療技術の進歩により手術の安全性は向上したとは言え、人工心肺装置を用いることによる合併症発生のリスクがあり、また手術時に心臓を停止させることで、一時的な心機能低下をきたすことは避けて通れなかった。そのため、すでに重度の心機能低下をきたしている患者や高齢・並存疾患の多い患者には手術を行うことは困難だった。
低侵襲性や安全性の向上により、より重症例での治療が可能に
研究グループは、これまで重症心不全患者に対する筋芽細胞シート移植やiPS細胞を用いた再生医療など、多岐にわたる重症心不全治療の開発を進めてきた。一方で、低侵襲心臓手術の推進にも積極的に取り組み、2009年に経カテーテル的大動脈弁置換術を、2019年にはカテーテル的僧帽弁形成術を国内で初めて成功させた。
さらに今回、新たな治療法として、カテーテルを用いた経カテーテル僧帽弁置換術の臨床試験を開始し、経心尖アプローチによる僧帽弁置換術を国内初で実施した。
同治療法で低侵襲性や安全性が向上することにより、より重症例での治療が可能となるため、従来の僧帽弁手術が治療不能もしくは非常にリスクが高いとされていた患者に、新たな低侵襲治療の選択肢を提供することが可能となることが期待される。
▼関連リンク
・大阪大学大学院医学系研究科 ニュース&トピックス