従来の手法に代わり、オルガノイド培養法でNASH病態進行の再現を試作
東京農工大学は2月10日、病態ステージの異なる「非アルコール性脂肪肝炎」(以下、NASH)モデルマウスの肝臓組織から、NASH病態の特徴である肝線維化を再現した三次元培養組織を作出することに成功したと発表した。これは、同大大学院農学研究院の臼井達哉特任講師らと、山口大学、北里大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Biomaterials」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
アルコールの摂取量とは無関係に脂肪肝を発症し、肝硬変・肝がんに進行するNASH。その罹患者は近年、予備軍を含めると国内で約1,000万人存在するといわれており、社会的な問題となっている。これまでのNASH研究では、実験動物にNASH誘導食を給餌することでNASH病態(肝臓組織の炎症、脂肪沈着、線維化など)を再現し、薬剤を連続投与して、その改善効果から有効な薬剤を絞り込む手法が用いられてきた。しかし、大量の実験動物と長期にわたる薬剤の投与が必要となるため、さまざまな薬剤の効果を同時に検討することが難しく、重度の肝線維症を伴うNASH患者に対しては有効な薬剤が存在していない。また、NASH病態の進行度を正確に反映する有効な診断マーカーも見つかっていない。
実験動物の代替として「オルガノイド培養法」が注目されている。この培養法は、生体臓器から分離した上皮幹細胞を培養液や足場を工夫することで三次元的に長期培養し、組織の多様性や極性といった組織本来の性質を維持できる方法として開発され、がんの個別化医療や毒性試験などへの応用が期待されている。NASH病態モデル動物の肝臓組織を用いたオルガノイド培養は行われておらず、その有用性は明らかになっていなかった。
病態ステージが異なるNASHモデルマウスの肝臓組織からオルガノイド培養
本研究チームは、各病態ステージのオルガノイドの遺伝子発現パターンを解析することで病態ステージ特異的なマーカーの同定するため、6週齢の実験用マウスにNASH誘発用飼料を給餌し、病態ステージの異なるNASHモデルマウスを作成。マウスは、4週間給餌=NASH Aで脂肪肝初期、8週間給餌=NASH Bで脂肪肝中期、12週間給餌=NASH Cで線維化進行期とした。体重、肝重量および肝機能のモニタリングを行った後に、NASHモデルマウスから肝臓組織を摘出してオルガノイド培養を行った。
結果、各ステージのモデルマウス由来の肝臓オルガノイドが安定的に作製可能なことが示された。特にNASH Cオルガノイドでは、NASH病態の特徴である上皮・間葉転換(EMT)様の上皮組織構造が観察され、線維化の指標であるコラーゲンの蓄積や、活性化星細胞マーカーであるα-SMA発現の上昇が認められた。また、オルガノイドの形成効率は、NASH Aのオルガノイドで上昇し、NASH B、NASH Cのオルガノイドで低下していくことや、その制御機構にサイトカインIL-1βを介した炎症性反応が関与することが示唆された。さらに、RNAシークエンス解析によって各病態ステージのオルガノイドにおいて特異的に上昇する遺伝子や、全ステージのオルガノイドで発現が高い遺伝子が存在することを明らかにした。
この研究により作出されたNASHモデルマウス由来肝臓オルガノイドは、煩雑な作業を経ることなく、肝細胞および活性化星細胞に特化した遺伝子発現の比較や新規薬物治療スクリーニング試験が可能となるため、重症NASH患者に対する新規治療法の開発につながると考えられる。「各病態ステージ特異的に発現が上昇する遺伝子は、NASH初期、中期、後期のステージ判定マーカーとして健康診断等で活用されることが期待できる」と、研究グループは述べている。
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・東京農工大学 プレスリリース