876人の約650万か所の遺伝子変化を調査
浜松医科大学は2月8日、自閉スペクトラム症と関連する遺伝子変化を有する子どもでは、1歳6か月の時点で特定の領域の神経発達に遅れが見られることを見出したと発表した。この研究は、同大学子どものこころの発達研究センターの高橋長秀特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。
自閉スペクトラム症や注意欠如多動症(ADHD)などの神経発達症(発達障害)を有する子どもの数は増加しており、平成25年の厚生労働省障害者対策総合研究では、就学前幼児が自閉スペクトラム症を有する割合は従来の報告(約1%)よりも高く、3.5%に達することが報告されている。
自閉スペクトラム症の発症には、さまざまな環境要因と遺伝子の変化が関連していることが明らかになっている。この遺伝子の変化には、非常にまれなものと頻度の高いものの2種類があり、大部分の自閉スペクトラム症の方では、頻度の高い遺伝子変化が複数組み合わさって発症に関わっているのではないかと考えられている。しかし、これらの頻度の高い遺伝子変化がどのように幼少期の神経発達に影響を与えるかについては、わかっていなかった。
今回、研究グループは、2007年より浜松母と子の出生コホート(HBC Study)の一環として行われた遺伝子解析によって研究を進めた。具体的には、欧米人を対象とした先行研究をもとに、876人の約650万か所の遺伝子の変化を調べ、自閉スペクトラム症に関連する遺伝子の変化の数と効果の大きさを考慮して、ポリジェニックリスクスコアと呼ばれる「遺伝的リスク」を算出。自閉スペクトラム症の傾向については、世界的に広く自閉スペクトラム症の程度をはかるために使用されているAutistic Diagnostic Observation Schedule-2(ADOS-2)を使用した。1歳6か月時点での神経発達については、評価スケールであるMullen Scale of Composite for Early Learning(MSEL)を使用して、粗大運動、微細運動、受容言語、表出言語、視覚受容の5つの領域の発達を評価した。
ポリジェニックスコア高で、粗大運動と受容言語の発達に遅れ
ポリジェニックスコアを用いてADOS-2で測定した自閉スペクトラム症傾向との関連を解析した結果、ポリジェニックスコアが高い場合では、自閉スペクトラム症傾向、とくに社会的コミュニケーションが苦手になる傾向が強くなることがわかった。一方で、自閉スペクトラム症のもう一つの特徴であるこだわりの強さについては、関連は見られたものの、社会的コミュニケーションの苦手さに比べると、弱い関連にとどまった。
また、ポリジェニックスコアとMSELの5項目についての関連を解析。その結果、1歳6か月時点での神経発達については、ポリジェニックスコアが高い場合で、粗大運動と受容言語の領域の発達が遅れることを見出したという。
今回の研究成果により、今後、1歳6か月検診などに反映され、自閉スペクトラム症を発症する可能性のある子どもに対して、より早期に介入を行うことで、良好な社会適応を目指すことが可能になると考えられる、と研究グループは述べている。
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