医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > レビー小体病の前駆症状保有率を日本人で明らかに、早期発見・予防に期待-名大ほか

レビー小体病の前駆症状保有率を日本人で明らかに、早期発見・予防に期待-名大ほか

読了時間:約 3分7秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年02月12日 AM11:45

レビー小体病の治療では「神経症状発症時には神経変性が進行」が課題

名古屋大学は2月10日、難治神経変性疾患の1つであるレビー小体病を対象にした臨床研究において、日本人の一般人口におけるレビー小体病の前駆症状の保有率を明らかにし、自覚症状を有しない50歳以上の健診受診者の5.7%に2つ以上の前駆症状を有するハイリスク者が存在することを見出したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、服部誠客員研究員、国立長寿医療研究センターの鷲見幸彦病院長らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Neurology」(電子版)に掲載されている。


画像はリリースより

認知症を含む神経変性疾患では、異常タンパク質の蓄積が臨床症状の発症に10〜20年以上先行して生じていることが明らかになってきており、発症前に病態を抑制することが重要と認識されている。レビー小体病は、αシヌクレインの神経細胞内の蓄積を病理学的な特徴とする神経変性疾患であり、(PD)とレビー小体型認知症(DLB)を含む疾患概念。PDは動作緩慢などの運動障害と認知機能障害を呈し、国内患者数は20万人程度と推定されている。一方、DLBは国内患者数が60~90万人程度と推定されるアルツハイマー型認知症に次いで、頻度の高い認知症であり、幻視などの認知機能障害とパーキンソン病に似た症状を呈する。

PDに対してはL-dopaを始めとするドーパミンに関連する薬剤やゾニサミドなどの非ドーパ薬、またDLBに対してはドネペジルとゾニサミドが治療薬として承認され臨床で使用されているが、これらの治療薬には長期的な効果や副作用の面で限界があり、特にPDでは発症後数年は内服治療により運動症状が比較的良好にコントロールされるが、その後はウェアリングオフやジスキネジアなどの運動障害が高度になることが知られている。その主な要因として、神経症状の発症時に既に神経変性が進行していることが挙げられる。例えば、PD患者では発症時に既に50%以上のドーパミンの神経細胞が脱落(死滅)していることが知られており、神経症状を発症するまでの期間に神経変性を抑制する疾患修飾療法を開始することが必要と考えられている。

50歳以上の健診受診者の中に、前駆症状を複数有するハイリスク者が5.7%存在

近年、レビー小体病では神経症状が発症する10~20年前から便秘やREM期睡眠行動異常症(RBD)、嗅覚低下などの前駆症状(prodromal症状)を呈することが注目されている。また、画像検査(ドーパミントランスポーターシンチグラフィー(DaT SPECT)やMIBG心筋シンチグラフィー)による早期診断も可能であることが明らかになりつつある。一方で、日本人の一般人口における前駆症状の保有率は、十分に明らかになっておらず、神経症状を発症する前のハイリスク者を抽出する方法は不明だった。そこで今回、研究グループは、久美愛厚生病院(岐阜県高山市)、だいどうクリニック(愛知県名古屋市)の健診センターと連携し、これらの施設の健診受診者(年間 1万2,378 人)を対象にしたレビー小体病の前駆症状に関する調査とハイリスク者のレジストリ構築を目的に研究を行った。

その結果、自覚症状がない4,953名の健診受診者から得られた自記式調査票(RBDSQ-J、SAOQ、SCOPAAUT日本語版など)の解析において、50歳以上の2,726名の受診者の5.7%にあたる155名が、RBD、嗅覚低下、自律神経障害(便秘)のうち、2つ以上の前駆症状を有しているレビー小体病ハイリスク者であることが明らかになった。これらのハイリスク者では、うつや日中の眠気といった他の前駆症状のスコアも高値であり、レビー小体病患者に広い範囲で類似した前駆症状を有していた。また、男性のハイリスク者ではヘモグロビン(Hb)、赤血球数(RBC)、ヘマトクリット(Hct)などの貧血に関するマーカーや、総コレステロール(T-Cho)、LDL コレステロール(LDL-Cho)が低値だった。先行研究において、貧血や低コレステロールは将来のPD発症のリスク因子であることが報告されており、今回研究グループが抽出したハイリスク者でも同様の結果が得られた。自覚症状がない者は病院を受診しないため、神経症状がないハイリスク者を通常診療で同定することは困難だが、健康診断制度と連携したレジストリを活用することで、神経変性疾患・認知症のリスク評価が可能であることが示された。

現在、研究グループは、さらに研究を進めている。既に、質問紙によって抽出したハイリスク者に対して、運動機能、認知機能、生理検査、画像検査(DaT SPECT、MIBG心筋シンチグラフィー)等のレビー小体病に関する二次精査を実施しており、神経症状を有しないもののDaT SPECTやMIBG心筋シンチグラフィーなどのレビー小体病に特徴的な画像の異常を呈する者が存在することを見出しているという。また、将来的には、前駆期のレビー小体病患者に対して、疾患の発症を遅らせる先制治療の臨床研究に着手する予定だとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • パーキンソン病、足こぎ車いすの有用性を確認-畿央大
  • 軟骨無形成症、CDK8阻害剤投与で疾患マウスの長管骨伸長-岐阜薬科大ほか
  • 骨肉腫、Mcl-1阻害剤を用いた治療法が有効である可能性-がん研
  • 過分化メラノーマモデルを樹立、免疫学的特徴を解明-埼玉医大
  • 心不全の治療薬開発につながる、障害ミトコンドリア分解機構解明-阪大ほか