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統合失調症などに多い染色体領域の欠失を再現したモデルマウス作製に成功-東大ほか

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2020年02月12日 PM12:00

統合失調症の発症メカニズム解明に重要なリスク因子「22q11.2欠失症候群」

東京大学は2月7日、高い統合失調症の発症リスクを伴う22q11.2欠失症候群に着目し、ゲノム編集技術を用いて、この症候群の原因である染色体の微細欠失[3.0-Mb(メガベース)の22q11.2欠失]をマウスで再現することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター動物資源学部門の饗場篤教授、齋藤遼大学院生、名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野の尾崎紀夫教授、同大大学院医学系研究科医療薬学の山田清文教授、永井拓准教授、同大医学部附属病院ゲノム医療センターの久島周病院講師、同大脳とこころの研究センターの森大輔特任准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は「Translational Psychiatry」に掲載されている。


画像はリリースより

統合失調症は、思春期から青年期にかけて発症し、陽性症状(妄想・幻覚など)、陰性症状(感情の平板化・活動意欲の低下など)を主要な症状とする精神疾患。これ以外に、知能・記憶力・注意力・実行機能などの認知機能の障害も認められ、社会的機能の低下から日常生活に支障を来す。病因・病態は未だ不明な点が多く、それらに基づく治療法や診断法の開発は進んでいない。家系内に同疾患が集積していること、遺伝率が約80%と高いことから、発症に関わる遺伝的素因を見つけることが同疾患の病因・病態の解明に重要であると考えられている。近年では、ゲノム解析技術の進展もあり、発症に強く関連するゲノムの変異が多数報告されている。

22q11.2欠失症候群は、患者が統合失調症や知的障害などの精神疾患を高頻度で発症することから、多様な精神疾患の発症に関わるゲノム変異として注目されている。特に、統合失調症の発症リスクは、これまで知られている単一の遺伝的リスク因子の中で最も高く(オッズ比:16.3–44.2)、統合失調症の発症メカニズムを解明する上で重要なリスク因子であると考えられている。同症候群では、約90%の患者で特定の染色体[3.0-Mb(メガベース=100万塩基対)]の微細欠失が認められる。この領域には、タンパク質をコードする遺伝子が46個存在しており、これらの遺伝子群は同様の一群(シンテニー)を保ったまま、マウスの16番目の染色体の長腕のA13という部分に保存されている。そのため、同症候群で見られる欠失をマウスで再現することが可能であり、いくつかのモデルマウスが異なる研究グループにより作製されてきた。しかし、これまでに作製されたモデルマウスは3.0-Mb領域の部分的な欠失を再現したものに過ぎず、患者の遺伝的素因を十分に再現しているとは言えなかった。

部分欠失ではなく3Mb丸々欠失したマウスで、統合失調症に関連の表現型を確認

そこで研究グループは、22q11.2欠失症候群における3.0-Mb領域の欠失をマウスで再現するため、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を行った。その結果、標的とするゲノム領域が欠失したマウスの作製・系統化に成功。この遺伝子改変マウスは高い死亡率を示し、出生した個体の70.6%が生後3週間以内に死亡した。そこで、死亡率を引き上げる原因を調べるため、胎生18.5日胚を用いて組織学的解析を行ったところ、大動脈弓離断(13.3%)、右鎖骨下動脈起始異常(6.7%)、胸腺低形成(46.7%)という、22q11.2欠失症候群の患者で見られる表現型が観察された。

次に、3.0-Mb欠失を再現したマウスの行動解析を実施。その結果、オープンフィールド試験とY字型迷路試験において活動量・探索行動の低下を示した。これらの結果は、統合失調症における陰性症状を反映していると考えられた。また、社会的相互作用試験における新奇のマウスとの接触時間の減少、恐怖条件付け記憶学習試験における記憶力の低下が観察された。さらに、3.0-Mb欠失を再現したマウスは、プレパルス抑制の低下・視覚誘発電位の振幅低下という統合失調症様の表現型を示した。

22q11.2欠失症候群と関連する精神疾患の発症メカニズムの解明・治療法の開発に期待

さらに、さまざまな精神疾患において重要な臨床症状である「睡眠障害」との関連を調べるため、概日リズムの測定を行った。恒常的に暗期な環境下における1日の活動リズムを解析したところ、3.0-Mb欠失を再現したマウスは、野生型マウスと異なる活動リズムを示した。このことから、3.0-Mb欠失を再現したマウスの内在性活動リズムに異常がある可能性が示唆された。また、体内時計の調節が正常に行われるかを調べるため、時差ボケ実験を行った。その後14日間程度、マウスを明期12時間・暗期12時間の明暗サイクルで飼育した後、この明暗サイクルを8時間ずらして時差を与え、何日かかって時差ボケを解消できるか測定した。その結果、3.0-Mb欠失を再現したマウスは、8時間の明暗サイクルを前進させたとき(ヒトが日本からアメリカへ行くのと同じような時差を与えたとき)、野生型マウスよりも時差ボケが早く解消した。

今回の研究で作出された遺伝子改変マウスは、22q11.2欠失症候群で最も主要なタイプの3.0-Mb領域の欠失が再現されている。これまでのモデルマウスよりもヒト患者の遺伝的素因を忠実に再現したモデルマウスが作製されたことで、統合失調症をはじめとする22q11.2欠失症候群と関連する精神疾患の発症メカニズムの解明・治療法の開発につながることが期待される。(QLifePro編集部)

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